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「キリギリス」になれない日本人 前年より消費支出を「減らす」50%超

よくできたコラムです。

 

上野泰也

「普通の人々」は今、消費支出について何を考えているか?

 消費者庁が月次で結果を発表している「物価モニター調査」は、全国の物価モニターの見取調査による生活関連物資の価格動向把握(特売品等の廉売価格を含む)など、文字通り物価に関する調査結果が主となっている。だが、参考として公表されている今後3カ月の消費支出を前年同期と比べてどのようにするつもりかをたずねた設問への回答も、筆者は毎回、必ずチェックするようにしている。それは、「普通の人々」が消費支出について何を考えているかが、実によくわかるからである。

 昨年12月20日に発表された同月の物価モニター調査(速報)によると、今後3カ月の消費支出を前年の同期間と比べて増やすか減らすかをたずねた設問への回答分布は、「増やそうと思っている」(8.6%)、「特段増やそうとも減らそうとも思っていない」(40.2%)、「減らそうと思っている」(51.2%)になった。多数派は「減らそうと思っている」であり、2015年4月の調査以降、一貫して5割を超えている。日本人の倹約志向の根強さが浮き彫りになっている。

 国民一般の消費支出に対する姿勢の違いから、日本人を「アリ」、米国人を「キリギリス」に例えることが、昔からある。米国の個人の貯蓄率の推移を見ておきたい

米国の貯蓄率は住宅バブル崩壊で一時上昇も、その後再び低下

 貯蓄率は、1960年代から80年代前半までは、10%前後以上の水準となっていた。その後、1980年代後半から1990年代前半に貯蓄率は8%前後に水準を切り下げ。インターネットバブルが膨らむとさらに下がり、2000年には4%前後になった。貯蓄率というのは可処分所得に対する貯蓄の割合だから、これが下がるということは貯蓄せず消費に回るお金の割合が高くなっているということを示している。このバブルが崩壊すると、過剰消費への傾斜を米国人は反省したのか、水準をやや切り上げて貯蓄率はしばらく安定的に推移した。だが、今度は住宅バブルが膨らんで、貯蓄率の低下を促すことになる。2005年7月には2%を割り込み、1.9%を記録した。

 2006年に住宅バブルが崩壊して住宅価格が急落。金融システムが不安定化する中で景気全体が急速に悪化すると、貯蓄率は水準を切り上げていき、2009年5月には8.1%に達するなど、6~8%程度の新たなレンジを形成した。米国人の過剰消費体質が金融ショックで変化したのではないか、そのことにより米国の経常赤字幅が縮小すれば世界経済全体にとっても朗報ではないかという議論が展開されたのは、この頃だったと記憶している。2012年12月には11.0%というイレギュラーに高い数字が単月で出てきた。

 ところがその後、各国当局の政策総動員によって経済金融情勢が安定してくると、米国の貯蓄率は下がり始める。4~6%程度のレンジを新たに形成したかに思われたが、4%ラインを突き抜けて貯蓄率は低下していき、2017年11月には2.9%まで下がった。これは2007年11月以来の水準である。

米国の過剰消費体質の「復活」が浮かび上がる

 消費者信用残高という別の米経済指標からも、過剰消費体質の「復活」が浮かび上がる。大まかに言うと、この統計は住宅ローン以外に米国人が抱えている借金の残高を示すもので、クレジットカードローンなどの回転(リボルビング)信用と、教育(学費)ローンや自動車ローンなどの非回転信用から成り立っている。

 全体は2017年10月まで74カ月連続増加中であり、うち回転信用は47カ月連続、非回転信用は74カ月連続の増加である。非回転信用のうち、自動車ローンの残高増加、中でも信用スコアが低い人向けのいわゆるサブプライム自動車ローンの増加には問題がある。また、教育(学費)ローンは、大学授業料の高騰を背景に借り入れる人が増えており、就職してからも返済負担に苦しんでいて住宅の購入などがなかなかできないことが社会問題と化している。だが、これらについてここでは詳述しない。

「のど元過ぎて熱さ忘れる」のが米国の消費者の特徴

 筆者がここで注目したいのは、毎月の返済額が一定である代わりに借金の元本が減少するペースが遅い回転信用が、「リーマンショック」の後にはいったん減少していたものの、ここ4年ほどは再び増加しているという点である。「のど元過ぎて熱さ忘れる」ということわざ通りの展開ではないか。景気が大幅に悪化した場面では悔い改めて消費額を絞ったものの、状況が安定してくると借金してでも消費する「キリギリス」へと、あっさり戻ってしまったわけである。

 米国人は借金の残高(ストック)をさほど気にせず、毎月の支払額(フロー)が管理可能な範囲であればそれでとりあえずよしとする傾向が強いとされている。そうした根本的な部分は、世界経済全体を揺さぶるほどのショックが加わった後も、結局変わらなかったということだろう。

支払額が管理可能なら「OK」の米国、残高が気になる日本

 これに対し日本人は、借金の残高(ストック)を常に気にする性向があるように思われる。クレジットカードのリボルビング払いが米国に比べるとなかなか普及しないのは、そのあたりと関係があるのではないか。

 物価モニター調査に話を戻して、昨年12月の調査結果をもう少し詳しく見ると、今後3カ月の消費支出を前年の同期間と比べて「増やそうと思っている」を選んだ人が理由として挙げたうちで最も多かったのは、「去年の同期間よりも必要な支出が増えると見込まれるから」(55.2%)である。必要が生じて仕方がないから支出を増やそうという話であり、物価上昇の予想や所得増加の予想が理由になっているわけではない。能動的に生活を豊かにするために支出を増やそうというのではなく、子どもの補習教育費のようにやむなく支出を増やすイメージである。

好景気でも浮ついたムードは全く感じられない

 一方、消費支出を「減らそうと思っている」を選んだ人が理由として挙げたうちで最も多かったのは、驚くべきことに、「所得が減ると思うから」(60.2%)だった。2018年の春闘は「官製春闘」4年目であり、安倍首相は経済界に3%以上の賃金引き上げを強く要請。所得促進税制の拡充により、法人税額控除というあめ玉をぶら下げて、政府は企業に賃金の上乗せを促している。だが、回答した物価モニターの人々は、逆に所得の減少を警戒しているわけである。好調な企業業績が予想以上に続いているからそろそろ変調をきたすのではないかという警戒感か、あるいは定年再雇用の際の賃金カットなどで従業員1人当たりの賃金はこれまで通りに結局はほとんど増えないという読みからなのか。理由は不明確だが、好景気でも浮ついたムードは全く感じられない。

将来不安の強い日本人は、「キリギリス」にはなれそうにない

 もう1つ、上記の回答分布の中で押さえておくべきは、日銀(およびリフレ派)が消費停滞の原因だと主張してきた「物価が下落することにより、普段購入しているモノ・サービスの価格が下がると思うから」は2.6%にすぎず、6つの選択肢の中では最下位が定位置になっていることである。値下がり期待(デフレ予想)から消費を先送りしている向きは少数派だということであり、この点は筆者の日頃の生活感覚にも合致する。

 「長生きリスク」という言葉に高齢者に限らず多くの人々が共感するなど、将来不安には根強いものがあり、個人消費が力強く伸びるのは、日本では難しいと言わざるを得ない。おそらく2018年前半には電子部品を軸にした輸出が息切れするとみられるが、個人消費がバトンタッチをうけて景気をけん引するというシナリオは、実現性がきわめて低い。日本人はやはり「アリ」で、米国人のように「キリギリス」にはなれそうにない。