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日銀の「戻れぬ賭け」、そろそろ精算を

2018年、異次元緩和のリスクに世界の注目が集まる可能性

小宮一慶氏のコラムです。

よくできています。

 2013年4月、日銀の黒田東彦総裁は、およそ15年にわたるデフレから脱却するために「異次元緩和」を発表しました。「135兆円のマネタリーベースを2年間で倍にする」。日銀が直接コントロールできるお金の量であるマネタリーベース(後で説明)を倍増するという前代未聞の政策は、世界中に大きなインパクトを与え、その直後に急速な円安株高が進みました。

 ところが、その効果も一時的でした。あれから約4年半が経とうとしていますが、目標だった2%の物価上昇の達成にはほど遠い状況です。2年で終わるはずの異次元緩和はさらに規模を拡大し、ついに今年6月末には、日銀の総資産が500兆円を超えたと報じられました。

 異次元緩和は、日本経済にどれだけの効果をもたらしたのでしょうか。私は、そろそろ日銀はこれまでの金融政策を検証し、出口を探るべきだと思います。今回は、景気指標から異次元緩和の効果を分析した上で、これから起こりうる問題やリスクを考えます。

日銀のリスク(不確実性)は拡大し続けている

 はじめに、これまでの経緯を振り返ってみましょう。2012年12月の総選挙で、自民党が当時政権を握っていた民主党に圧勝し、安倍政権が発足しました。その翌年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任。4月4日の金融政策決定会合で、「異次元の金融緩和」がスタートしました。

 異次元緩和とは、具体的にどんなことをするのでしょうか。最も大きな政策は、日銀券と日銀当座預金(金融機関が日銀に持つ当座預金)の合計である「マネタリーベース」を、2年後の2015年3月までに2倍に増やすというものでした。

 当時の日銀券残高は約85兆円、日銀当座預金残高は約50兆円、合計135兆円を、270兆円まで膨らませるということです。経済規模に比べてそのような大規模な量的緩和をやった国は、どこにもありません。中央銀行が負うリスクが、あまりにも大きいからです。

 発表翌日である4月5日付けの日経新聞朝刊1面に、「黒田日銀、デフレ脱却へ戻れぬ賭け」という記事が大きく出ていたのをよく覚えています。まさに日銀は、「賭け」とも言える後戻りできない政策を打ち出したのです。

 ところが、それだけ大規模な金融緩和を行っても、目標である「物価2%」の達成は見通せませんでした。そこで日銀は、2014年10月末に、国債などの買い入れ資産を年80兆円まで拡大する2度目の異次元緩和を発表。さらには、16年2月に、日銀当座預金の一部にマイナス金利を付与する「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。

 マネタリーベースの推移を見ますと、異次元緩和がスタートした13年度以降、大幅に増え続けていることが分かります。徐々に伸び率は縮小しつつありますが、それは分母が大きくなっているからで、17年に入ってからでも前年比20%前後の水準を維持しています。マネタリーベースの絶対額はどんどん増えているのです。スタート時は135兆円だったのが、現在は400兆円をゆうに超えています。主に市中に出回る国債などを買い取り、その代わりお金を日銀当座預金に振り込むことでマネタリーベースが「膨張」しているからです。

効果はあったが、リスクの方がはるかに大きい

 では、異次元緩和は、日本経済にどれだけの効果をもたらしたのでしょうか。日銀が目標としている「消費者物価指数」を見てください。

 スタート時の13年度は、前年比0.8%。14年度は同比2.8%と大幅に増えています。14年度の増加分のうち2%は消費増税上昇分と日銀は算定していますから実質的には0.8%です。ここまではまずます順調でした。そこからは、大きく状況が狂いました。15年度以降はゼロからマイナスの状況が続き、17年に入ってから若干プラスに転じています。物価目標2%達成までには、依然として遠いと言えますね。

 ただし、まったく効果がないとは言えません。「M3増加率」を見てください。M3とは、現金通貨とゆうちょ銀行を含む市中銀行の預金残高を合計したもので、市中にあるお金の量をすべて足し合わせたものと考えてください。

 景気が良くなると、M3が増えていきます。企業がお金を借りると、その分がいったん企業の預金口座に振り込まれ、それがさらに貸し出しに回るという循環ができるからです(これを「信用創造」といいます)。

 M3増加率は、16年末から上昇しはじめ、17年に入ってからは前年比3.5%前後の水準を保っています。同様に、銀行の貸し出し状況を示す「銀行計貸出残高」も、前年比3%台まで伸びていますね。これは良い傾向です。

 ただし、日銀のリスクは高まる一方です。日銀は市場に流通する資金量や政策金利などを調整する役割がありますから、普段でも大体100兆円程度の国債は保有していなければなりませんが、今は必要額を大きく超える400兆円もの国債を持っているわけです。

 これによって、いくつかの弊害が生じています。一つは、国債の「玉」、つまり市場で売買される国債の流通量が極端に少なくなり、国債価格が変動しにくくなっていることです。売買注文が来ないため、証券会社の国債ディーラーがクビになるというニュースもありました。金利市場の中核をなす国債市場は健全な状況からほど遠いと言えます。

 二つめは、日銀が国債を大量に買うことで金利が低く抑えられ、国債金利で利益を上げている生命保険会社、銀行、証券会社などの収益が悪化したことです。特に地方銀行や信用金庫は、元々貸し出し先が少ないので、国債金利による利益に支えられていました。それが大幅に減ってしまったことで、業績が大変厳しくなっています。また、必要以上の低金利は、預貯金の保有者である、とくに高齢者層の金利収入を大幅に減少させています。(これは当然のことながら、消費にも悪影響を及ぼします。)

 三つめが、近い将来、日銀のリスクがクローズアップされる可能性が低くないということです。これはとても深刻な問題です。

 すでに米国では、政策金利を15年12月から引き上げ始め、現在1~1.25%に誘導しています。米連邦準備理事会(FRB)は、年内にもう一度利上げをするのではないかとも言われており、量的緩和についても、早ければ9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で縮小(テーパリング)を決める可能性があります。

 また、欧州でも、マイナス金利の見直しや量的緩和の縮小が始まる可能性があります。欧州全体ではGDP成長率は長期間にわたりプラスを維持しており、まずまず安定しています。マイナス金利についても、欧州中央銀行(ECB)はなるべく早く正常化したいと考えているでしょう。

 このように、欧米では経済が比較的安定し、金融緩和が縮小していく流れにある中、日本だけが異常な状況が続いており、今後も金利上昇や量的緩和縮小の見通しが立っていません。日本のGDPは、統計の変更などを除けば、本質的には1990年代初頭から全く伸びていない。日銀が目標としている「物価2%」の達成時期は6回も延期され、異次元緩和の出口は全く見えていません。

 そんな日本の状況が、欧米の金融政策が「正常」に戻る過程で、来年にはクローズアップされるのではないかと私は懸念しています。

日銀は早急に出口戦略を打ち出すべき

 7月に、異次元緩和に反対し続けていた2人の政策審議委員が任期満了で交代しました。これによって、新たに就任した2人を含めると政策決定会合のメンバー全員が緩和を支持するリフレ派で占められます。異次元緩和の早期縮小が遠のいた、と言えるのではないでしょうか。

 つまり、4年半近く続いているこの危険な「戻れない賭け」が十分に検証されないまま、賭け金だけがさらに増えていく可能性があるということです。この点が、私が最も懸念していることです。

 経済が順調に成長し、出口をうまく模索できるのであれば解決できるかもしれませんが、先にも触れましたように、日本は20年以上、本質的に成長していないわけです。しっかりとした成長戦略もないのに、少子高齢化がますます深刻になる中で、安定的に成長していくことは難しいでしょう。ましてや、政権の安定性もここにきて、大きく揺らいでいます。

 巨額の財政赤字を抱えるこの国において、金融がおかしくなると、インフレ率が予期せず急上昇したり、それに伴って金利が上昇したりする恐れがあります。金利が跳ね上がれば、国債利払い費も増加しますから、財政も一層厳しい状況になるでしょう。また、日銀はじめ、国債を多く保有する金融機関などは、多額の含み損を抱えます。

 日本は、低金利、低成長に慣れすぎてしまっています。その裏側で、財政赤字がどんどん拡大し、日銀が異常に資産を増やしているという事実を見落としてはいけません。いつまでもこのような状況が続けば、財政の規律もなくなりますし、期せずしてインフレ率や金利が急上昇する可能性もあるのです。

 では、どうすればよいのか。日銀は、早い段階で出口を模索し、具体的な策を発表しなければなりません。これまでの金融政策を検証し、縮小の道筋をつけるのです。

 現在、日銀は年間80兆円の国債やETFなどを買い入れ、資産を増やし続けています。その額を、例えば、60兆円、50兆円と縮小させていくことを決めるのです。もちろん、米国のようにどこかの時点で買い入れ額をゼロとし、さらには、保有債券などの満期ごとにその額を縮小していく必要があります。

 日銀がこれまで買い入れた国債は、いつまでも保有しているわけにはいきませんから、どこが受け皿になるのかというところも決めていかなければなりません。

 もし、経済が成長し、ある程度先を見通すことができた上で、金利が徐々に正常に戻りつつあれば、金融機関はある程度の国債を引き受けてくれると思います。特に、地方の金融機関は国債運用で利益を得ていた部分が大きいですから、国債を保有したいというニーズは高いでしょう。

 繰り返しになりますが、欧米の金融政策が縮小に向かう中、2018年には日本の金融政策の異常な状況がクローズアップされてしまうのではないかと私は懸念しています。そうなると、金融市場が大きく混乱する可能性もあります。「戻れない賭け」の結果がどう出るのか、国民もマスコミももっと注目すべきではないでしょうか。