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「勝者」しか住めなくなったシリコンバレー

瀧口 範子氏のコラムです。

少し、恐ろしい内容です。

 

 稀有な発展を遂げたシリコンバレーの良いところは、言い尽くせないほどある。新しいテクノロジーやビジネスモデルが常に生まれ、優れた才能が世界から集まる。起業に挑戦する果敢さも溢れていて、同時に失敗も学習機会として捉えられる。

 しかしその一方で、シリコンバレーのひずみや失敗もここ数年明らかになってきた。最大の問題は、シリコンバレーが「勝者」しか住めない町になってしまったことだ。シリコンバレーのスタートアップは、事業の失敗であれば「ピボット(方向転換)」によって成功に導いているのだが、ことにシリコンバレーにおける社会的な失敗は、なかなか修正されそうにない。深く構造的な問題になりつつあるからだ。

シリコンバレー住民の30%が公的サポートに頼る

 シリコンバレーの社会的な失敗の事例をいくつか紹介しよう。ひとつは貧富の差だ。2016年末に「オープン・インパクト(Open Impact)」というNPOが発表したレポートによると、シリコンバレーに住む「ミリオネア」や「ビリオネア」の数は7万6000人にも上るが、その一方で住民の30%近くは日々の食事もままならず、公的、私的の何らかの生活サポートに頼っているという。30%とはかなりの割合だ。

 ホームレス人口も、豊かな土地からは想像できないほどに多い。スタンフォード大学があるパロアルトや米Google本社のあるマウンテンビューを含むサンタクララ郡の調べでは、2017年1月時点で同郡のホームレス人口は7394人で、前回調査のあった2015年から838人増えた。

 中でも25歳以下の若者や子供が、全ホームレス人口の3分の1を占めているという。実際、最近はサンフランシスコでもシリコンバレーでも、街を歩いているとホームレスの人々があまりに多いのに、異常な印象を受けるほどだ。

住宅価格は100万ドルを突破

 住宅問題も同様に深刻だ。住宅価格の高騰げが止まらず、サンタクララ郡では2017年5月時点で、一戸建ての中間価格が前年度から9.3%上昇して109万3000ドルになった。米Facebook本社のあるメンロパークを含むサンマテオ郡の中間価格は138万5000ドルでさらに高い。

 しかも中間価格の数字は実態を表していない可能性がある。シリコンバレーでよく目にする売家には、300万ドルや500万ドルと値札が付けられている。サンフランシスコ市内でもワンベッドルームのアパートの賃貸料が、今や4000ドルを超えているのも珍しくない。現実離れした現象と言えないだろうか。

 住宅問題には解決策が見当たらないため、シリコンバレーはますます勝者しか住めない場所になっていくはずだ。こうした住宅問題や格差問題、ホームレス問題は、当然のことながら互いに関連している。今はまともな住宅に住めなくなった家族がキャンピングカーの中で生活したり、路上のホームレスになったりしている状態だが、そのうち彼らはシリコンバレー自体にいられなくなってしまうだろう。

 彼らが辛うじてシリコンバレーにとどまろうとしているのは、それでも何らかの職があるからだ。1日に掃除や店員の仕事を三つ掛け持ちしてなっているような状態でも、収入のあてが見えないほかの土地へ引っ越すよりはいいし、何と言っても慣れ親しんだ土地だからだ。

年収1000万円超でも住めないサンフランシスコ

 そして、勝者しか住めないというその「勝者」もどんどんレベルアップしている。賃貸情報スタートアップの米Radpad(ラッドパッド)の調査によれば、米AirBnBや米Uber Technologiesなどサンフランシスコに本社を構えるテクノロジー企業に勤める中級、上級レベルのエンジニアは、会社に歩いて通える距離に住もうとすると、年収の50%前後を賃貸料に費やす必要があるという。

 東京の視点から見ると、歩いて通える距離に住むこと自体が贅沢に見えるかもしれない。しかし彼らは10万ドル(約1100万円)を超える年俸をもらっている。そうした彼らすら、サンフランシスコには住めなくなっているのだ。社会の下から順に、この土地の排他作用が働き、それが徐々に上のレベルにまで進んでいる。

 昔から高級住宅地はどの都市にでもあるから、シリコンバレーが超高級住宅地域になっても何もおかしくなという考え方もあるだろう。しかし新しい生活方法を提示するはずのテクノロジーが、社会面では昔からある問題を強化してしまっていることがとても残念なのだ。本来であれば今頃は、テクノロジーの力によってもっと違った未来を生きているはずではなかったのか。

テクノロジー企業に「倫理委員会」を

 スタンフォード大学政治科学部のロブ・ライシュ教授は、テクノロジー企業は市民社会を尊重する姿勢を示しているものの、「市民社会への責任ある関わりは、自社のプラットフォームへの人々の関わりを最大化しようとする努力とは一致しない」と述べている(2017年6月開催の「The Aspen Ideas」カンファレンスでの発言) 。

 GoogleやFacebook、米Apple、米Amazon.comといったプラットフォーム企業がますます強力になるにつれ、我々の生活はごく限られたプラットフォームの上だけで成り立ってしまうと感じられるほど、テクノロジー企業は大きな成功を収めている。しかしその一方で、社会にはひずみが出て、弱い立場の人々に大きな犠牲を強いている。

 ライシュ教授は、テクノロジー企業は病院にあるような「倫理委員会」を設けるべきだと提案している。一部のテクノロジー企業の巨大な影響力や生活への浸透ぶりを考えてのことだ。さて、テクノロジー企業はそんな変化を遂げられるだろうか。

 我々もシリコンバレーの繁栄の陰にある負の側面や、テクノロジーが我々個人の生活に及ぼしている作用に意識的になる時期に来ている。シリコンバレーへの関心は、それだけ成熟しているはずなのだから。