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曲がり角のホテルREIT

「観光立国」のエンジンになれるか

武田 安恵氏のレポートです。良くよくできています。

ホテル投資を主体とするREIT(不動産投資信託)に資金が集まっている。背景にあるのは、訪日客増加や政府の観光立国政策を受けての成長期待だ。しかし相場は調整局面に。民泊など新たな競合も台頭する中、再成長につなげられるか。

 大阪市の臨海部に立つ客室数480の高級ホテル、ハイアットリージェンシー大阪。1994年に開業し、世界的に有名な「ハイアット」ブランドを冠するホテルとして、世界各国から宿泊客が訪れる。その客層が最近、変わり始めている。

 以前は、関西国際空港にアクセスしやすい立地から、航空会社で働く客室乗務員がキャリーバッグを引きながらチェックインに並ぶ姿が目立つなど、ビジネス目的の利用が多かった。それが今は子供連れの家族客が目に見えて増えている。近くにある有名テーマパークのユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市此花区)が右肩上がりで成長を続けていることもあるが、変化をもたらしたのはそれだけではない。

 昨年11月にホテルのオーナーが代わったことがきっかけだ。海外の不動産投資ファンドから160億円でホテルを取得したのは星野リゾート・リート投資法人。「ホテルREIT」と呼ばれる、宿泊施設への投資に特化したREIT(不動産投資信託)のひとつだ。

 星野リゾート・リートは取得後、営業の軸足を観光客に移している。ビジネス客も大切なゲストだが、客室1室当たりの販売単価は1人で泊まるよりも複数で泊まったほうが高く設定できる。USJなどに観光に訪れるカップルやファミリー向けの販路拡大に力を入れたほうが効率が高まると判断した。「ハイアットというブランド、USJに車で15分という立地から考えても、もっと観光需要は取り込める」。同投資法人を運用する星野リゾート・アセットマネジメントの秋本憲二社長はこう話す。

 ファミリー向けの営業強化で増収を図る一方、婚礼や宴会にかかる人件費を見直すなどしたところ、ホテルを取得してから約半年間で営業総利益が前年同期比8.1%増の4億8500万円となった。

2013年以降、上場相次ぐ

 訪日外国人客の増加で観光業が脚光を浴びる中、投資家が注目するようになったのがホテルREITだ。

 その仕組みは大まかに上図のようになる。まず、主にスポンサー企業が所有物件をREITに売却。REITに対して賃料を支払いながら、今まで通りホテルを運営する。REITは投資家から資金を集め、スポンサー企業が出資する資産運用会社を通じて運用の指示を受けながら、新たにホテルやリゾート施設を取得。投資家はREITの運用益から分配金を受け取る。スポンサー企業は不動産をバランスシートから切り離すことができるほか、所有物件の売却で得た資金を使うことで、銀行の借り入れなどの負債を抑えながら新たな物件を開発できる。

 星野リゾート・リートもホテルや旅館といった宿泊施設を主な投資対象としている。2013年に上場し、スポンサーの星野リゾートの物件だけでなく、ANAクラウンプラザホテルなど他からの物件取得にも力を入れている。

 日本のホテル特化型REITの先駆けは現在のジャパン・ホテル・リートの前身、ジャパン・ホテル・アンド・リゾートの06年2月の上場までさかのぼる。その後、しばらくホテル特化型は誕生しなかったが、13年の星野リゾート・リート以降、いちごホテルリートや大江戸温泉リート、森トラスト・ホテルリートと上場が相次いだ。また、インヴィンシブルのように、14年にホテルを中心に投資するよう、方針を変えたREITもある。インヴィンシブルは現在、ポートフォリオの約6割をホテルが占めている。

 こういった急拡大の背景にあるのが政府の観光立国政策と訪日外国人(インバウンド)の増加だ。16年にインバウンド数が当時の政府目標の2000万人を前倒しで達成したこともあり、観光は数少ない成長産業の一つとみられている。訪日客4000万人の達成を目指す20年には東京オリンピックという一大イベントも控えている。

 投資家が熱い視線を注いでいることは運用成績にも表れている。49ページのグラフからも分かるように、ホテルREITの値動きは14年から2年間で、オフィスや商業施設などに投資する他のREITに比べて2倍近い値上がりを記録した。

民泊が強力なライバルに

 観光立国を追い風に明るい未来図を描くホテルREITだが、潮目の変化が見え始めている。

 「スポンサー、所有物件、いずれもピカピカの優良銘柄なのに、公募価格が想定価格を大きく下回ったことに相場の冷え込みを感じた」

 野村証券の荒木智浩J-REITアナリストは、今年2月に上場した森トラスト・ホテルリートについてこう振り返る。同リートは東京駅前の超高級ホテル、シャングリ・ラホテル東京や新大阪駅から徒歩1分のコートヤード・バイ・マリオット新大阪ステーションという極めて収益性の高い物件を保有している。しかし、15万8000円の想定価格から1万円以上低い14万3000円が公募価格となった。「少し前ならもっと人気があったはず」と荒木氏はいう。 訪日客数は過去最高を更新し続けているが、伸びは鈍化しておりインバウンド景気はかつてほどのインパクトは見られなくなっている。ホテルREITに対し投資家は冷静になり始めている。

 先行きには新たな競争相手が立ちはだかる。一般住宅に旅行者を有料で泊める民泊だ。民泊仲介の世界最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)が日本に持つ部屋数は約5万2000件。利用者の旅行先の半数近くが東京都に集中している。次に多いのが大阪で、この2つで7割を占める。Airbnbによると16年の利用者数は370万人だった。複数箇所に泊まった場合は別々に数えるため、単純比較はできないが、訪日客の1割前後がサービスを使った可能性があり、強力なライバルになっている。

 民泊の台頭で最も影響を受けているのがビジネスホテルに代表される宿泊特化型ホテルだ。所有ホテルの9割近くをビジネスホテルが占めるインヴィンシブルは、昨年12月、運用状況が当初予想を下回ったとして業績予想を下方修正した。とりわけ、外国人宿泊客の多い東京23区の東側エリアの客室単価が平均1000円近く下落したことが痛手となった。「稼働率は9割を超えていたが、価格競争が激しく平均客室単価(ADR)を上げられなかった。民泊がここまで増えるとは思っていなかった」と、同投資法人を運用するコンソナント・インベストメント・マネジメントの福田直樹社長は要因を分析する。

 頭を悩ませているのは民泊だけではない。オンライン旅行会社(OTA)の利用客が増えたのを受け、OTAに登録するホテルが増加した。予約を獲得するため、より低い価格を提示する施設が増えた。価格競争の激化は、ADR押し下げにもつながっている。「需要を正確に把握し、日々の販売価格に反映させることや、直前キャンセルの予防は、収益性向上の課題である」と、いちごホテルリートを運用するいちご投資顧問の織井渉社長は話す。同リートの所有物件はすべて宿泊特化型ホテル。課題への取り組みを強化しているという。

自らの首絞める「拡大戦略」

 不動産の賃料は物件の老朽化とともに少しずつ下がっていく。賃料低下の影響をカバーするためにも、REITは新規物件取得を通じて資産規模を拡大し、リスクを分散させることが求められる。REITが構造的に持つこの「拡大戦略」志向は、長期的には自らの首を絞めることにもなりかねない。供給過剰リスクにつながるからだ。

 しかも16年6月には国や東京都が宿泊施設の新規建設に対して規制緩和を打ち出した。東京都では一定の条件を満たせば、宿泊施設の容積率を最大で500%上乗せできるようになった。積極的な拡大路線で全国にホテルを開設するアパホテルのように、インバウンド需要を狙った動きは続いている。今のところホテル需要は高水準だとしても、需要を大きく上回る供給があれば、当然宿泊価格は値崩れする。

 さらに「収益還元法」を用いた不動産評価が、実際の土地や建物の価値と著しい乖離を生み出すリスクもささやかれる。収益還元法とは、米国で生まれた不動産評価方法で、日本でREITが誕生した01年に持ち込まれた。土地や建物の価格に加え、施設に入居するテナントの収益性や賃料水準も加味して算出される。「テナントの稼ぐ力」を反映した価値が算出できるが、「テナントが退去すると不動産価値が大きく下がるリスクがある」と、REIT業界に詳しいアイビー総研の関大介氏は話す。

 商業施設では実際に大幅な価格下落が起こっている。イトーヨーカドー東習志野店(千葉県)が入居したビルを89億円で取得したトップリート(現在は野村不動産マスターファンドと合併)は、16年、イトーヨーカドーのテナント撤去を発表した。その後、ビルを承継した野村不動産マスターファンドは物件を売却したが、価格は約7億円にしかならなかった。

 ホテルは運営会社のオペレーション能力の水準や賃料水準の前提の置き方次第で評価額がぶれやすい。それだけに、収益還元法による評価のぶれが出やすいともいえる。足元のホテルREITの価格が期待先行で裏付けのないものとなり、バブルを生み出してしまうことはないのか。不安は残る。

地方創生への期待も

 こうした懸念はくすぶるが、53年に人口が1億人を割り込み、多くの産業で国内市場の縮小が予想される日本で、ホテル産業は外国からの宿泊客増で成長が期待される。都市部はもちろん、地方への送客も進めば、過疎による経済縮小が深刻な地方の活性化にもつながる。ホテルREITは、その役割を担うプレーヤーとしても期待される。

 16年8月に上場した大江戸温泉リートの所有物件は、もとは築年数の長い、老朽化した温泉宿泊施設だ。スポンサーの大江戸温泉物語(東京・中央)は、後継者問題や、資金繰りに悩む地方の温泉宿泊施設を取得し、リニューアルして高稼働・安定収益の施設としてよみがえらせることを得意とする。静岡・伊東温泉の伊東ホテルニュー岡部など、再生実績は30件以上ある。

 チェーンオペレーションを導入し、有名温泉地でも1泊2食付き8000円前後という手軽な価格帯を実現。都心から送迎バスを運行させて、アクセス面にも気を配る。その結果、シニアやファミリー層の需要取り込みに成功した。

 ホテルREITは、分かりやすい成長ストーリーから、投資家からの資金を集めやすく、その資金が急成長の起爆剤となった。観光立国を資金面で安定的に支えるエンジンとして機能させるには何が必要か。ブームが冷めた今、冷静に再成長へのシナリオを整理する必要がありそうだ。