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AI戦争で日本は米国の“小作人”になるか

評論家の大御所、田原総一朗のコラムです。

表現力はさすが、一流です。

 

 僕は今、経済産業省が主導する「ソサエティー5.0(第5期科学技術基本計画)」の取材を進めている。これが非常に面白い。産学官が連携し、人工知能(AI)やビッグデータ、ロボットなどの分野に資源を集中し、イノベーションを起こそうという国家プロジェクトだ。

 なぜ、経産省がこんなことを始めたのかといえば、政府も企業も、日本の産業界の未来に危機感を抱いているからだ。

 かつて日本では、任天堂やバンダイ、セガ、コナミ、DeNAなどといったゲームメーカーが急成長し、世界的なヒット作を数多く出していた。彼らの収益力は非常に高く、日本の成長産業の一つだった。

 ところが、風向きは変わった。スマートフォンの登場である。米国のグーグルやアップルが、スマホをゲームのプラットフォームとして構築。日本勢は、そのプラットフォームの上で彼らにサービスを提供するようになった。つまり、日本のゲームメーカーはみんな米国勢の“小作人”になってしまい、業績が振るわなくなった。米国のIT企業に敗れたともいえる。

 今後、他の産業界でも同じ現象が起こりうる。自動車業界で言えばトヨタ自動車やホンダ、電機業界で言えばパナソニックや日立など、日本を代表する企業が、下手をすれば、軒並み小作人化する恐れがあるのだ。

 これが、日本の産業界の最も大きな課題である。

 今、自動車メーカーの最大の目標は、自動運転車の開発だ。AIの実用化で、にわかに自動運転が現実味を帯びてきた。その先頭を走る米グーグルは、ドイツや韓国と組んで、自動車をいわば「大きなスマホ」にしようとしている。

 自動運転車の機能は、様々な技術が融合している。景色を見る、標識や信号を読む、障害物を感知する、ブレーキをかける、アクセルを踏む……。グーグルは、そういった技術をすべて統合したソフトウエアを開発しようとしているのだ。

 グーグルは、自動運転車のプラットフォームである「車載OS」の開発を目指している。先に述べたゲームメーカーと同様、AI戦争に敗れれば、自動車メーカーもグーグルの小作人となってしまう恐れがあるというわけだ。

「課題先進国」日本の強み

 こういった事態を避けるために、トヨタやホンダ、日産などの自動車メーカーは、一斉にシリコンバレーに研究所を設立した。

 なぜ、シリコンバレーなのか。自動運転の核となるAIの研究者のほとんどが米国で研究開発しているからだ。残念ながら、レベルの高い研究者は、日本にはあまりいない。トヨタが優秀な研究者を引き抜こうとしても、なかなか日本に来てくれないという。来たとしても、すぐに米国に帰ってしまう。だから、日本に研究所を置けなかった。

 そういった意味で、日本はAIでは大きく出遅れている。しかし、自動車メーカーには圧倒的な強みがある。それは、自動車の走行データを大量に保有していることだ。モノ作りの技術レベルも高い。スマホの中のゲームと違い、自動車には「モノ」の付加価値が高い。

 もう一つ、忘れてはならない大きな強みは、日本が「課題先進国」だということだ。中でも深刻なのは、少子高齢化による人手不足だ。これは一見弱点のようだが、実は強みにもなる。

 例えば、欧米でタクシーやトラックが自動運転車になれば、失業者が確実に増える。現時点でも欧米の失業率は高い。特に欧州では、イスラムからの移民によって雇用の問題が深刻になっている。

 2016年6月、英国がEU離脱を決めた最大の原因は、イスラムや東欧諸国からの移民が増え、英国人の失業率が上昇していたからだ。EU圏内は、「ヒト」「モノ」「カネ」の移動が自由だから、加盟国は難民の問題を避けられない。こうして英国民の不満が高まり、EUから離脱することになった。

 米国も同様だ。なぜトランプ大統領が勝利したかと言えば、グローバリズムによって、米製造業は人件費の安いメキシコや中国に工場を移転し、米国で失業率が上昇してしまった。これが米国民の不満を強め、反グローバリズムのトランプ氏が支持されたというわけだ。

 もし自動運転車が普及すれば、欧米ではますます失業率が上昇してしまう。だから、欧米では、本音では自動運転車は歓迎されていない。

人手不足はAIに有利

 一方、日本は少子高齢化によって人手不足が深刻化している。トラックの運転手だけでも、4万人以上足りないという。人手不足は、本来であれば弱点だが、AI技術を普及させる土壌という意味では、非常に強みになる。

 例えば、AIロボットが普及すれば、多くの雇用が奪われるという予測がある。従来のロボットには「目」がなかったが、人の神経回路を模した計算手法であるディープラーニングによって画像認識が可能になり、ようやく「目」を持つロボットが誕生したのだ。

 こうしてロボットは、自分で判断し、自分で行動できるようになった。AIロボットが普及すれば、特に製造や建設、農業などの分野では、どんどん無人化が進んでいくだろう。

 政府が「ソサエティー5.0」を進めようとする理由は、ほかにもある。

 日本は今、世界で最も経済が安定している国だ。失業率は3%を切り、有効求人倍率は全国で1倍を超えている。株価も日経平均2万円という高い水準をキープしている。最も大きな特徴は、貧富の格差が、世界の先進国の中で最も小さいことだ。こんな国は他にない。

 欧米では格差が凄まじい。例えば、日本は、一部上場企業の経営者でも、年収は高くてもせいぜい数億円程度である。一方、欧米では70億~80億円という水準だ。

 貧富の差が非常に小さいからこそ、日本は安定している。今は支持率が落ちているが、自民党が過去4度の選挙で全て勝利しているのは、経済が安定しているからだと言える。

 しかし、致命的な問題がある。需要や消費が伸びないことだ。このまま何も手を打たなければ、人口減少によって、需要はどんどん減っていく。当然、消費も落ちこんでゆく。

 その打開策として、政府は「ソサエティー5.0」を打ち出した。今までは、大量生産の時代だったが、AIを導入することで、一人一人のニーズに細やかに対応し、非常に質の高いサービスや製品を提供することができるようになる。

 こうして潜在需要が開花すれば、消費が伸びる。日本企業の国際競争力も強化できる。これが、「ソサエティー5.0」の目的である。

 そのためにも、日本がプラットフォームの勝者となることが必要である。分水嶺となるのは、自動車とロボットだろう。日本の背骨である製造業が米国勢や中国勢に負けるようであれば、それこそ国が揺らぐ。

 僕が取材した経営者やエンジニアは「まだ勝敗は分からない」と口をそろえる。彼らは過度な自信も持たないし、かといって悲観もしていない。自動車やロボットのプラットフォームを握る攻防戦。その戦いが始まっている。