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「デジタル社会」に経済統計は対応できる?

よくできたコラムです。

 

上野泰也のエコノミック・ソナー

消費伸びない、物価上がらない

「婦人服・洋品」では個人消費の動向を計れなくなった

 筆者は日常の生活感覚を重視するエコノミストとして、さまざまな経済指標を長い間、ウォッチし続けている。全国百貨店売上高の関連で言えば、以前には、「婦人服・洋品」が前年同月比プラスを続けているなら個人消費はとりあえずしっかりだという見方をしていた。なぜなら、家計の財布のひもを握るのは多くの場合、専業主婦が多数派の「奥様」族であり、その大きな関心事である衣服などファッション関連の支出は「歳出削減」の対象にはなりにくく、景気が良くなってくれば「歳出増加」圧力が増すというコンセプトが、その頃には十分成り立っていたからである。そして、景気がさらに良くなる場合、ようやくご主人にもお金が回り、百貨店で紳士服の売り上げがプラスに転じると考えられていた。

 だが、女性のライフスタイルは、世代が新しくなるにつれて、かなり変わってきている。

 結婚・出産後も専業主婦にならず働き続けることを選択する女性が、意識の変化や政府の後押しもあって多数になった。最近の若い夫婦の場合、それぞれが自分で稼いだお金を管理していて「財布は別々」という事例が少なくないように見受けられる。

中古衣類の個人間売買ではGDPは伸びない

 女性が衣料品やファッション関連の雑貨・小物を買う店は、オンラインのケースを含め、実に多様化している。最近では若い世代を中心にスマートフォン上のフリマ(フリーマーケット)アプリであるメルカリなどが大人気で、中古(あるいはいわゆる新古)の衣服が個人間で売買されるケースも増えている。

 経済統計の観点から言うと、こうした場合、業者の仲介手数料といった付随して生じる付加価値以外は、GDPに計上されない扱いとなる。なぜなら、中古品の売買は、それが衣服であるにせよ自動車であるにせよ、モノを新たに産み出してはおらず、所有権の移転にとどまっているからである。

 入学・入社に伴う家電や家具の買い揃えを含めた新生活の準備を、上記のようなアプリでの買い物だけで済まそうというキャンペーンが行われている。買うのが新品でも中古品でも、消費者が手に入れる効用には大筋変わりがないわけだが、メルカリなどの隆盛によって、GDPでは民間最終消費支出(個人消費)が伸び悩み、経済成長率は抑制される。

「デジタル社会」に経済統計は対応できているのか

 急速な発展を遂げる「デジタル社会」。こうした新しい事態に伝統的なマクロ経済統計は十分対応できているのだろうかという疑問を抱いているのは、筆者だけではあるまい。

 難題に対処できているように見えるとの主張もある(たとえば内閣府経済社会総合研究所「経済分析」第192号所収「デジタル時代を迎えた今も、GDPは正しく計測されているか?」)。その一方で、「GDPは、技術による構造的変化をとらえられない」「GDPはSNSを測定できない」「総合的な生産量は過小評価されている」「情報技術の発展がもたらす効率性は、財の市場価値を高めない限り『付加価値』として認められることはない」といった、厳しい意見も出されている。

外国企業からモノやサービスを買うのはきわめて容易

 「デジタル社会」では、ニュース・百科事典・音楽・映像を含む多種多様で生活を豊かにする情報を、消費者は無料で容易に入手することができる。SNSの活用などを通じて、社会におけるさまざまな活動が従来よりも効率よく、国境を越えて、スピーディーに展開されている。オンラインの手軽な決済サービスと迅速な配送サービスが利用可能になっており、外国の企業からモノやサービスを入手するのは現在ではきわめて容易である。そうした取引の実態を悉皆的(しっかいてき:全例的、漏れなく)に調査し国家間で共有・整理して個別国の経済統計に正確に反映させるのは、なかなか難しいだろう。また、ビットコインに代表されるさまざまな仮想通貨が規模を拡大しており、国の通貨主権を脅かす存在になりつつあるとみる論者もいる。

統計としての限界を露呈しつつあるのでは

 このように、10年ほど前でも想像できなかった新しいライフスタイルが現実になっている。ところが、たとえば家事労働のような無償のものは含まないという大原則をGDP統計は早くから確立してしまっている。さまざまなサービスが対価なしに提供されるデジタル化の大きな波に直面して、GDPに代表される伝統的なマクロ経済統計は技術的な難点に直面するのみならず、統計としての限界を露呈しつつあるというのが率直な評価ではないかと、筆者は考えている。

 デジタル化の波は、物価の上昇を抑制するという点でも、実に大きな影響力を発揮しつつあると筆者はみている。グローバル化とデジタル化(ITの発達)の組み合わせが賃金上昇の抑制を通じてサービス分野の価格上昇を押さえ込んでいるというのは、筆者が以前から主張していることなのだが、ここではもう1つの論点として、価格情報の入手がデジタル化によって実に容易になったことによる影響を取り上げたい。

ネットの普及により価格は安い方へと収れんしていく

 たとえば、ある特定の機種のテレビは、どの店で買うと一番安いか。インターネットが普及する前は、口コミ情報や情報誌に頼るしかなく、リアルタイムの価格情報は入手がほぼ不可能だった。ところが現在では、価格情報専門サイトにアクセスすると、価格が安い順に店舗ごとの販売価格を容易に見ることができる。しかも、宅急便が発達しているので、買った品を車や電車に乗ってわざわざ取りに行く必要もない。一定の価格以上だと送料が無料になることも少なくない。こうなると、高い販売価格が放置されるということがなくなり、全国ベースで販売価格は安い方に収れんしていく。家電量販店の出店が少なく価格面での販売競争がほとんど起こってこなかったローカルエリアに住んでいる人が、都市部よりも高い販売価格を我慢したままテレビを買うといったことが、もはやなくなるわけである。

 むろん、これはテレビのような耐久消費財に限った話ではない。食品でも衣料品でも、ネット上で値段が安い店を探したり、さらには、すでに述べたようにフリマアプリで安く買ったり、逆に不要になったらできるだけ有利な価格で売ったりすることが、お手軽に行える世の中になった。

アマゾン参入により食品の価格も下がる?

 6月下旬、ネット通販大手のアマゾンがスーパーマーケットのホールフーズ・マーケットを買収すると発表したことが、米国の株式市場で大きな注目を集めた。ホールフーズは、比較的値段が高い自然食品・有機食品に強みがある。中低所得層の通販で大きなシェアを持っており、攻めをさらに続けようとしているアマゾンは、今回の一手で食品分野に本格参入する戦略のようである。競合することになるスーパーマーケット大手の株価は軒並み値下がりした。アマゾンの参入によって食品でも販売競争が激化して価格が下がり、業績が悪化するという読みからである。デジタル化進展を背景とするデフレ圧力が米国で一層の拡がりを見せてきた事例と言えるだろう。

デジタル化の波が消費活動を一変させる

 その米国では、物価が想定通りに上がってこないにもかかわらず、FRB(連邦準備理事会)が利上げを断続的に実施している。だが、上記のような動きも含めて考えると、利上げ路線は遅かれ早かれ行き詰まって停止を余儀なくされるだろうと、筆者はみている。失業率の低さや株価の高さにこだわって無理に利上げを続けると、景気後退懸念が急浮上するなどして失敗し、かえって利下げのタイミングを手前に引き寄せることになるだろう。

 デジタル化の波は、従来型の経済統計だけでは捕捉しきれない、消費活動の大きな変化につながっている。そうした点も踏まえながら経済・金融市場の動向を予測することが、エコノミストに強く求められる時代になったように思う。