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投信販売、背水の陣 顧客本位に変われるか

99%が長期投資「失格」商品

日経ビジネス2017年6月12日号トップ

 

衝撃的な記事です。

 

 「おいしいレストランは繁盛し、まずくて高い店は淘汰される。投資商品についても同様のインフラが作られることが望ましい」

 森信親金融庁長官によるこんな批判が、投資信託の運用・販売に関わる銀行、証券会社、運用会社を震撼させた。4月に開かれた日本証券アナリスト協会での国際セミナー。そこに招かれた監督官庁のトップが投信の現状をばっさりと切り捨てたのだ。

 森長官は2015年7月の就任以来、ことあるごとに日本における投信の手数料の高さや設定期間の短さなどの問題点を指摘してきた。「フィデューシャリー・デューティー対策室」といった名称の社内組織を急ごしらえする会社が相次いでいるのは、そのためだ。英語で「顧客本位の業務運営」を意味するこの横文字に業界は、「右往左往している状態」(セゾン投信の中野晴啓社長)だという。

 改革スピードが遅い業界に金融庁の姿勢は先鋭化してきた(上の表を参照)。そしてついにトップ自ら「社会的に続ける価値があるのか」とまで言い放った。運用会社関係者は「森さんは本気なんだという姿勢が伝わってきた」と振り返る。

 株や債券に直接投資するよりも少ない金額でリスク資産を長期保有できる投信は、個人にとってハードルが低く、資産形成の手段として活用しやすい金融商品の一つだ。金融庁は14年に年間120万円、5年間の取引を非課税とする少額投資非課税制度(NISA)をスタートし、個人マネーを投信に誘導する流れを作った。そして18年から始まるのが年間40万円を20年間非課税とする「積立NISA」。株式などを分散保有し長期投資で資産形成する、投資信託という金融商品の特性を最大限生かせるようにした制度だ。

合格した投信は1%以下

 だが、金融庁が長期投資に適することを念頭に定めた基準をクリアした投信はあまりにも少なかった。日本で販売される投信は5000本を超える。条件を満たしたのはそのうち1%以下にすぎなかったのだ。

 1800兆円といわれる巨額の個人金融資産。リスクマネーとなって投資に向かえば、日本経済の成長を下支えする存在となり得る。ところが、投信の販売現場では本来あるべき姿に逆行する営業方針がまかり通っていた。

 その象徴が、多くの投信販売会社が主力として扱ってきた「毎月分配型」と呼ばれる商品だ。運用収益の一部を毎月の分配金として投資家に支払う。国内外の高利回りの株式や債券などに投資し、為替差益と金利収入から分配金の原資を稼ぐ。

 国内の低金利を背景に、「分配金を年金の足しに」といった目的で購入する高齢者を中心に人気を博したが、「長期投資で得られる複利効果を自ら捨てている。分配なしの商品を選ぶほうがはるかに合理的」と、金融のプロの評判は散々だ。ピークの12年には投信の純資産残高の7割を占めた毎月分配型だが、運用成績が悪化し、元本を取り崩して分配金を出すものが相次いだ。

 しかも販売会社は運用成績が悪化すると、顧客に対しその投信の売却を促し、値上がり傾向のある新しい分配型への乗り換えを勧めた。

 投信を乗り換えると、販売会社には都度、購入金額に対し3~3.5%の販売手数料が入る。さらに運用コストとして顧客から受け取る年1.5~2%の信託報酬も運用会社と販売会社の懐に入る。かくして分配金の高い、売りやすい投資信託が次々と新規設定された。

 リーマンショック以降、投信の純資産総額は100兆円弱の横ばいの状態が続いている。その背景には、業界が手数料欲しさに短期間で投信の乗り換えを勧め、顧客の資産を増やそうとしなかったことと、運用益が分配金の形で流出したことが深く関係している。

 長期保有に向く投信より手数料が稼げる投信の販売に奔走してきた業界に対して、森長官は「最終通告」とも受け取れるボールを投げつけた。そのボールを業界はどう返すのか。

 業界の代表として、野村証券、大和証券グループ本社のトップに顧客本位を実現するための取り組みと課題について聞く。

2大トップ、「投信営業、こう変える」

 森長官は投信販売は顧客に向き合っていないと痛烈に批判した。これに対して業界最大手、野村証券の森田敏夫社長は2012年から考え方を抜本的に変えてきたと主張する。

 12年8月に野村証券の経営は新体制になりました。その時に掲げたのがお客様本位のビジネス。根底に流れるのは金融庁の言うフィデューシャリー・デューティーそのものといえます。

 高齢化社会が到来し、顧客ニーズが変化しました。長寿化に伴いお金の面で年金受給や相続など様々な不安が出てきます。こうしたことは信頼されないと相談してもらえないわけです。

 かつては相場を見ながら電話で顧客の取引を仲介すればよかったわけですが、今は顧客が何を求めているかを最優先で考えねばなりません。全員の行動が変わったかと言われると、断言はできませんが、行動を見直した社員が増えていることは確かです。

 社員の考えを改めるため、すでに営業の評価軸を変えました。かつては売買手数料を重視していましたが、現在はより多くの顧客から資産を預けていただき、それをどれだけ増やせたかを重視しています。社員の在任期間も以前の3年から5年に延ばし、より長期のトレンドをきちんと見ています。

 森長官は、投信の本数が多すぎること、毎月分配型投信の販売に力を入れてきたことなども問題視してきた。

 商品数は相当減っています。これは私が営業のトップだった時に議論して変えてきました。時代が変わるような局面でのテーマ型投信についてまで否定はしませんが、旬のテーマの商品を出せば、乗り換えさせる営業になりがちです。社内で反対がありましたが、「我々が目指している方向はそうではない」と言って、テーマ型を乱発しないようにしました。

顧客の要望には逆らえない

 毎月分配型については当社としても重要な問題ととらえ、各運用会社と議論をしています。ただ、顧客に分配金が欲しいというニーズもあるのは事実です。要望に逆らってまで違う商品を勧めるわけにはいきません。

 グループに資産運用会社の野村アセットマネジメント(NAM)を抱える。顧客に有利な他社の商品よりNAMの商品を優先販売すれば利益相反となる。

 利益相反を防ぐためグループ内に金融商品の評価会社を持ち、商品を評価して顧客にとって最適か否かを判断する仕組みがあります。

 顧客が保有する株式投信の残高のうち、NAMの投信が占める割合は60%です。しかし運用主体ベースでは25%です。海外の資産運用会社は日本で独力で商品を売るのが難しく、NAMで引き受けているものがあるからです。

 これまで「回転売買」など手数料収入を重視する姿勢が批判されてきた証券会社。今度こそ変われるのか。

 医者や弁護士は全面的に顧客側に立たないとビジネスとして成り立ちません。資産形成を預かる我々も同じです。米国では証券外務員は尊敬される仕事として認められています。我々もそうならなければなりません。

 野村証券と並んで日本の投資信託市場を開拓してきた大和証券グループ本社。2017年4月から同社を率いる中田誠司社長CEO(最高経営責任者)はどのように顧客本位の運営を目指してきたのか。

 「貯蓄から投資」と言いながら長年進まなかったのは厳然たる事実です。これは顧客本位の姿勢ができていなかったことだけが理由ではないと思います。(株式相場の上昇基調が続いていた)米国と比べ、日本では得られるリターンが低く、長い間日本の投資家は成功体験が得にくかったからです。

 長く続いたデフレ経済の中では、お金は投資せずに持ち続けている方がよかった。今はデフレから脱却したと断言できる段階ではありませんが、徐々にそういう動きが出てきています。自然体で貯蓄から投資へのマネーシフトがある程度起きる環境になったと見ています。受け手である証券会社が、顧客本位の業務姿勢をきちんととれば、新しい投資家に入ってきていただく流れをさらに加速できるはずです。

 官民挙げてデフレからの脱却に取り組んでいる今こそ、顧客本位の業務姿勢という原則を自問自答し、自ら改善するきっかけとしたいと思っています。

 重要なのは顧客本位をどこまで現場に徹底できるかだ。この点について、具体的な改革を始めたという。

 この4月に営業のやり方を180度変えました。今までは本部が全支店に対し「今月は投資信託をいくら販売する」といったように商品ごとに目標を決めていました。支店からすると、月初には販売すべき商品がおのずと決まっていたということです。

 これを、毎月どの商品をいくら売るかは支店が自分で考えるように改めました。収支の予算、預かり資産の増加額、投信の運用報酬などの安定収益の3つは本部が指示していますが、それをどういう商品で達成するかは支店に任せている。

 始めたばかりなので支店ごとに取り組みレベルに違いはありますが、マーケットの動きと顧客ニーズの変化に合わせて機動的な対応ができるようになりました。売る側の都合ではなく顧客の立場で行動するよう促しています。

「安い=顧客本位」ではない

 投信の手数料や信託報酬が高すぎるという金融庁の批判に対しては、安ければいいとは限らないと主張する。

 これまでの報道で金融庁の本意が全て表されているとは思っていません。日本の投信の手数料は高いと言われますが、米国の株価指数連動型の投信などを除いた手数料は、日本とそう違いはありません。また、米国では確定拠出年金の普及で、手数料の低い株価指数連動型の投信の規模が大きくなりました。20兆円を超えるファンドも出てきて、投信全体で見た平均手数料を引き下げました。日本とは単純に比較できないと思います。

 我々が重視しているのは、ニーズが高まっているコンサルティングです。世界の政治経済が目まぐるしく変化する中で、1人の投資家が全部コントロールして判断するのは難しい。米国でも金融危機以降、コンサルティングを求める顧客が増えています。

 (複数の投信をまとめて専門家が運用する)ファンドラップのように一定の手数料がかかっても、プロがグローバルにリスク管理しながら運用し、顧客と定期的に対話するようなニーズはさらに高まると思います。質の高いサービスを提供できるなら、正当な対価はきちんといただくべきです。とにかく手数料を安くすれば、顧客本位になるわけでは決してありません。

抜本改革、時間との戦いに

 手数料収入を得るための営業から、預かり資産残高を積み上げるための営業にシフトする──。投資信託の販売現場は変わりつつあると証券会社は主張する。

 変化の象徴として関係者が挙げるのが「ファンドラップ」と呼ばれる商品の伸びだ。毎月分配型投信に代わって大手証券や信託銀行などが販売に力を入れている。2014年から3年間で預かり資産の残高は5倍以上になった。

 ファンドラップとは、証券会社や銀行が顧客と投資一任契約を結んで資金を預かり、複数の投資信託で運用するサービスのこと。プロが顧客の要望を聞いた上で商品選択して資産配分を決定、運用環境に応じて売買する。

 顧客ごとに取れるリスクや期待するリターンを組み合わせられるファンドラップこそが顧客本位の商品だというのが売る側の論理だ。

 だが、業界が拡販に力を入れる期待の星にも注文がついた。16年9月、金融庁が前年度の金融行政を振り返る「金融レポート」の中で、ファンドラップのコストに関し突っ込んだ言及をしたのだ。

 レポートではファンドラップと一般の投資信託のコストを比較。保有期間が4年を超えるとファンドラップの方が一般の投資信託よりもコストが高くなることを示した。ファンドラップの手数料は平均年2.2%。一方、投信は購入時に3%程度の販売手数料を支払うが、以降はかからない。長く持てば持つほどコストは割安になる。毎年払う信託報酬(平均年1.5%)と合わせても、一定の保有期間を過ぎればファンドラップのコストは投信を上回る。

 金融庁の指摘に対し、ファンドラップを販売する証券会社や銀行は、「手数料はオーダーメード運用の対価だ」と反論する。単なる投信と異なり、顧客向けのコンサルティングや自動的にポートフォリオを入れ替えるといったサービスが含まれるので、相応のコストがかかるのは当然というわけだ。

「やりたくない」が本音

 ただ、こうしたコンサルティングに対して魅力を感じて新規に資金を投じる人が増えているとはまだ言えない。日本の投信の純資産総額は横ばいが続く。既存の投信保有者が持っている投信を売却して、ファンドラップに乗り換える動きにとどまっているようだ。

 「(金融庁がやり玉に挙げた)毎月分配型投信を持つ顧客に、分配金が減ったタイミングでその投信の売却を持ちかけ、ファンドラップに誘導している」。営業の現場を知る業界関係者はこう打ち明ける。

 「金融庁が求めるフィデューシャリー・デューティーに対応しようとすると、手数料の引き下げや運用体制の見直しなど、これまでにない負担がかかる。やりたくないのが本音だ」。証券関係者は業界の雰囲気を説明する。

 顧客本位への転換にちゅうちょするうちに強力なライバルも台頭しつつある。「ロボアドバイザー」と呼ばれる、コンピュータープログラムが個々の投資家の要望に応じて最適な資産配分を提案するサービスだ。投資家はスマートフォンやパソコンがあれば、証券会社の窓口に行かずに自分に適した運用の指南を受けられる。人手を省くことで安価に提供でき、投資家の支持を集めつつある。売り物とするコンサルティングが優位性を失いかねない。

 日本の産業界がかつての低迷から脱し、国際競力を回復できたのは、痛みを伴うリストラを乗り越えたからだ。金融庁という“外圧”や急速なテクノロジーの進化という変化が次々と押し寄せる投信業界が、現状維持で持ちこたえられるという認識であれば、それは甘いのではないか。

 政府の方針であり、かつ業界の長年の悲願でもある「貯蓄から投資へ」という流れを作れるか。残された時間は少ないが、現状とあるべき姿の間にはまだ距離がある。(広岡 延隆、武田 安恵)