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人間を「駆逐」したウォール街の王者

機械と人間の逆転

米投資銀行最大手のゴールドマン・サックス(GS)がトレーダー600人をAIに置き換えた。圧倒的速さでスキルを身につけるAI。医師などの高給取りさえも、仕事が奪われ始めた。

 今年1月中旬、米ハーバード大学が開催したシンポジウム。世界中から集まった科学者などでほぼ満席となった会場は、登壇者である一人のコンピューターサイエンティストの登場を待ち望んでいた。男の名はマーティン・チャベス氏。当時、ゴールドマン・サックス(GS)のCIO(最高情報責任者)で、この5月にCFO(最高財務責任者)に就任したウォール街の革命児だ。

 「金融は、数学とソフトウエアの時代になった」「ゴールドマンのビジネスモデルは今やグーグルのようだ」と、静かな口調で、挑戦的な言葉を聴衆に浴びせかけた。

 さらに「今まさにビジネスモデルを急転換している」とした上で「2000年に600人いた当社の株式トレーダーは、今や2人しかいない。代わりは(AIを使う)自動株式売買プログラムだ」と明かした。静まりかえる会場。AIによる金融業界の地殻変動は衝撃的だった。

 株式トレーダーといえば、金融界の花形ポジション。世界各地のトップ大学を卒業したエリートが、株価変動や経済ニュースなどを常時チェックし、最適な瞬間に最適な価格で売買を行う。

 英金融データ会社によると、大手金融機関のトレーダーなどの平均年収は約50万ドル(約5600万円)に達する。ゴールドマンの場合、単純計算すると年間300億円を超す人件費が節約できる計算になる。

 これまで金融業界では、銀行の窓口業務がATMに取って代わられ、さらにはインターネットバンキングが台頭するなど、テクノロジーが人間の業務範囲を侵食してきた。

 しかし、「何に投資するか」「どのような金融商品を作るか」といった高度な判断力を求められる業務は、高い知性を持つエリートが変わらず担ってきた。だがその人間の聖域さえもAIは奪いつつある。もはやAIが人の業務を支えるのではない。AIが最高のパフォーマンスを出せるように、人は支える側に回る主従逆転がまさに起きている。

衛星写真から投資判断

 AIは、トレーダーが担う短期的な株式の売買だけではなく、これまでファンドマネジャーが手掛けてきた中長期的な運用までも自動化する。

 ゴールドマンでその運用モデルを開発するのが、ニューヨークにいる約190人のチーム。インドやロシアなど世界各地から優秀な頭脳を集めたチームの一員である諏訪部貴嗣マネージング・ディレクターは「以前に比べ、投資に有益な文章の意味を飛躍的な正確さで見抜けるようになった」と指摘する。

 AIが従来のコンピュータープログラムと違うのは高度な言語処理能力だ。アナリストのリポートなどを随時チェックし、微妙な表現の変化を把握。アナリストが株式銘柄への評価を「売り推奨」から「買い推奨」に変更する兆候などを事前に察知できるという。

 さらに画像情報も有効利用できるようになった。例えば、大量の衛星写真からAIが全米のスーパーマーケットの駐車場の混雑具合を判別し、小売企業の業績予想に役立てる。トウモロコシの栽培状況から、食品メーカーの仕入れ価格も予想できる。

 AIの登場で、人間のあらゆる活動が株式分析の対象となった。人間のトレーダーやアナリスト、ファンドマネジャーの情報処理能力が及ぶ範囲ではもはやない。

 ゴールドマンは今年2月、日本国内でも個人投資家向けにAIが運用する投資信託を発売開始。既に2300億円もの運用資金を集めている。三菱UFJ国際投信も2月にAI投信を設定。アストマックス投信投資顧問も、ヤフーが保有するビッグデータを活用した投信を運用する。

 AIファンドが乱立するなか、「いかに有用な数値・言語データをAIに学習させるのか。ほんの一握りの設計者の存在が重要になってくる」とヤフー検索を利用した投信の運用を助言する関西学院大学の岡田克彦教授は指摘する。

 数人の天才がいれば、業界を支配できる──。野心的な挑戦がニューヨークの小さなオフィスで始まっている。たった9人のAIヘッジファンド、リベリオン・リサーチを率いるのは33歳のアレクサンダー・フレイス氏。数学や機械学習を専門とする友人たちと07年に運用を開始し、09年には年間運用利回り41%を実現して世界を驚かせた。

 世界53カ国・地域の膨大な経済データをAIに読み込ませ、株式や債券など1万1000以上の投資先の値動きを予想する。14年に原油価格が下落した際は、原油輸出に支えられた南米諸国の為替をAIがいち早く売り、利益を確保した。「人間に比べ、AIは学習スピードが速い。運用を続ける中で、予測の精度は飛躍的に上昇している」とフレイス氏は語る。

圧倒的なリサーチ力
 世界53カ国・地域の経済指標などを24時間チェックする

ブレないメンタル
 波乱相場でも、市場の動きに惑わされず、AIが合理的に判断

徹底した低コスト構造
 運用コストは年1%と一般的なヘッジファンドの半分以下

 米国ではこうした一握りの天才的なソフトウエア技術者を求め、壮絶なヘッドハント合戦が繰り広げられる。世界最大級のヘッジファンド、米ブリッジウォーターは米IBMでAI「ワトソン」を開発したデービッド・フェルッチ氏を引き抜いた。西海岸ではコンピューターサイエンスと数学の博士号取得者を、ファンド関係者が血眼になって探し回っているという。当然、報酬は1億円以上が前提だ。

 一部の天才を除けば、専門性の高い仕事でもAIに取って代わられる。この現象は金融に限られたものではない。

 米東海岸のボストンにあるマサチューセッツ総合病院。19世紀に、世界で初めて麻酔を使った手術を成功させるなど、世界トップクラスの技術を持つ医療機関である。その一角を占める「臨床データサイエンスセンター」に、病院には似つかわしくないほど大きなサーバールームがある。中央部に設置されているのは、AIを搭載したスーパーコンピューターだ。

医者の役割が根本から変わる

 同病院は米スタンフォード大学の人工知能研究所や独ソフトウエア大手のSAPなどと提携。AIを使った医療を世界でいち早く開始した。AIに10万枚以上の患者の体内のスキャン画像などを学習させ、病気を診断させる実験を繰り返している。既に、肺がんの早期発見と幼少期の骨粗鬆症の進行分析のプロジェクトが実証段階に入り、実際の診断にも活用する。AIにより、従来は見つからなかったようながんさえ早期発見できるようになったのだ。

 骨粗鬆症のプロジェクトでは、子供の手の画像をAIが解析し、自動的に骨年齢を判断。既に人間の放射線科医とほぼ同等の正確性を実現した。骨粗鬆症のように画像で診断しやすい病気ならば、「99%の精度で正しい診断ができるようになる」(臨床データサイエンスセンターのディレクター、マーク・ミカルスキ氏)。日本でも国立がん研究センターなどがAIの活用を進めているが、いまだ実用化できていない。

 マサチューセッツ総合病院が学習させたAIは100種類を超えている。あらゆる病気を1つのAIで発見することは現状では不可能に近く、一つひとつの病気に特化したAIを開発し、診断の精度を高めている段階だ。肺がんと骨粗鬆症以外で実証段階まで進んでいないのは、AIに学習させるデータが不足していることが大きい。

 ミカルスキ氏は「データ不足などの問題で、5年や10年でAIが医師に取って代わることはない。病気の地域性もある。地域によって病気の傾向が違うため、AIをそれぞれの地域ごとに学習させる必要がある」と言ってこう続ける。「ただし、15年たてば医師の役割はがらりと変わる」

 例えば、比較的簡易な診断のみを提供する医療機関では、医師の数は間違いなく減る。AIが診断し、「医師はデータサイエンティストのような存在になる。データを理解し、AIの診断が正確かどうかを確認するのが医師の職能の一つになるだろう」(ミカルスキ氏)。完全に人間の医師が駆逐されることはないかもしれないが、診断の大半をAIに任せる時代は確実に近付いている。

 1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)。世界各国から1000社もの企業トップが集う中、近い将来に世界で数百万人分の仕事がAIなどの新技術に置き換えられるとの予想が発表された。

 いやが応でもAIは人間の仕事を奪っていく。それならば、できる限り早くAIに仕事を任せ、人手不足を解消したり、人間は人間にしかできない別の業務に注力したりすべきではないか。

 日本でも先進的な取り組みが始まっている。「AIを前提に、物流倉庫を設計から見直す」。こう力を込めるのは大和ハウス工業の常務執行役員、浦川竜哉氏だ。18年に千葉県流山市で完成させる拠点を手始めに、新型の物流センターを通販会社などに貸し出す。

 そこで活動するのは搬送用ロボット「バトラー」。商品を搭載した棚の下部に潜り込み、棚ごと自由に動かす機能を持つ。物流センターで働く人は、6~7割の時間を荷物を探して歩き回ることに費やすとされる。この作業をロボットに任せ、人手不足に対応する。

照明や空調をロボットに最適化

 目指すのは、人間ではなくロボットが主役の物流倉庫だ。AI化で倉庫の現場から人間を完全に排除できれば、通路の幅や照明、空調などはロボット用に最適化できる。営業時間という概念すらなくせるだろう。人手不足を嘆くだけでは、物流の自動化で日本勢は大きく後れを取る恐れがある。この危機感が大和ハウスを駆り立てている。

 金融では富国生命保険が今年から医療保険の給付金査定をAIが代替するシステムを導入。これまで4日程度かかっていた査定期間を1日短縮し、業務担当者を約130人から3割減らした。これにより「対面販売など、自社の注力分野に人員を再配置できた」(同社)。

 しかし日本企業全体で見た場合、冒頭のゴールドマンなどに比べAI化の速度は格段に遅い。別の保険会社幹部は、「大胆なAI化でミスが起きた際、担当者の責任問題となる。査定や商品設計などの中核的な業務では、当面人手による作業に頼りきりだ」と明かす。AIにゆだねる勇気がなければ、世界との差は開くばかりだ。