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マクロン氏は「仏の在り方」を示していない

田原総一朗のコラムです。

 

 5月7日に投開票された仏大統領選挙で、予想通り中道・独立系のエマニュエル・マクロン氏が勝利した。得票率を比べると、マクロン氏は65%、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏は35%と大きな差がついた。

 英国のEU離脱決定、米国のトランプ政権誕生という今年の流れを振り返ると、言うまでもなく世界の政治思想の大きな流れとして「自国優先主義の台頭」があった。マクロン氏はその流れとは一線を画す「親EU、親移民」を主張していた。

 フランス国民がマクロン氏を選んだ大きな理由は2つある。一つは、英国のEU離脱決定の反動だ。いわゆるブレグジットが、英国にとって損になるか、得になるか。徐々に世界の認識として「損」との評価が広がってきた。例えば、ロンドンの金融街「シティ」は世界の金融センターだが、離脱後はこの位置付けが軽くなってしまうのではないかという懸念がある。

 さらに、米国との関係も変わりかねない。英国は「米国と欧州を取り持つ」という大事な役割を担っていた。しかし、英国がEUから離脱すれば、この役割も薄れてしまうだろう。

 このような「英国のEU離脱は損失の方が大きい」という見方が、親EUを主張するマクロン氏の追い風になったのは間違いない。

 2つ目は、極右というルペン氏の主義主張そのものに対する懸念だ。フランスの三原則は「自由、平等、博愛」。もともとリベラルな気質を持つ多くの国民にとって、自国優先主義の高まりはあるにせよ極右を選ぶ選択肢は苦しいものがあったろう。

 ルペン氏は極右のイメージを払拭するためにジャンマリ氏を批判していたが、選挙戦の後半でジャンマリ氏が登場し、発言するようになった。ジャンマリ氏がメディアに出るたびに、国民戦線の「極右」や「人種差別主義」のイメージが湧き上がった。これも、ルペン氏の敗北に繋がった大きな要因だと思う。

「棄権投票率」25%が意味するもの

 マクロン氏を待つのは欧州が抱える大きな問題だ。

 今回の仏大統領選挙は、無効票・白票をあわせた「棄権投票率」が25%を記録し、50年ぶりの高さになった。棄権投票が多いということは、マクロン氏もルペン氏も支持しない人が多かったということだ。国民は、マクロン氏もルペン氏も「フランスの在り方」を示していないと思ったのだろう。

 そもそも、現在の欧州最大の問題は何か。

 昨年の米大統領選挙では、世界中のマスコミのほとんどが「ヒラリーが勝つ」と報じていたが、ふたを開けてみると勝利したのはトランプ氏だった。トランプ氏が勝った理由は、グローバリズムを否定したからだ。

 米国で初めてグローバリズムを推進したのは、レーガン元大統領だった。人、モノ、金が国境を越えて、国際市場で自由に移動できるようになったことは米国に繁栄をもたらした。その一方で国内の賃金は上昇し、デトロイトなどの北部工業都市や、西南部の工業地帯にある工場がメキシコや中国などに移転してしまった。

 こうして米国内の製造業の雇用情勢は悪化し、グローバリズムに反対する声が上がり始めた。トランプ氏はこの問題に焦点を当てて「何よりも米国の雇用を増やす。それが米国第一主義だ」とアピールし、国民の支持を予想以上に集めたのだった。

 その前に英国でも同様のことが起きていた。僕は、英国でEU離脱を問う国民投票が行われる前に、同国の政治家、学者、ジャーナリストら10人に電話取材をしたが、ほとんど例外なく「絶対に離脱はしない」という答えが返ってきた。ところが、結果的には離脱派が勝利した。

 なぜ、彼らは読み間違えたのか。政治家も学者もジャーナリストも、ある種のエリートだ。エリートは理想を追いかける。思えば、EUとは一つの大きな理想だった。かつてヨーロッパ全土は二度の大戦で戦場と化した。「もう二度と戦争はしない」。この誓いのもと、欧州を一つにしようとしてEUが誕生した。

 EUでは、人、モノ、金の移動を自由にし、欧州の豊かな国々が貧しい国々に資金援助をする仕組みがつくられた。ところが、かつてソ連の衛星国だった東欧諸国がどんどんEUに加盟し始めると、その風向きが変わり始めた。貧しい東欧諸国がEUに加盟すると、仕事を求めて英国などの豊かな国に移動した。イスラム諸国の難民たちもどんどん入国していった。

 すると、英国民は移民・難民に雇用を奪われ、生活が苦しくなった。その上、英国は豊かな国として、貧しい東欧諸国に資金援助をしなければならない。英国民の不満は高まり、その不満がEU離脱の引き金を引いた。

 つまり、欧州の最大の問題は、難民・移民だと言える。フランスも例外ではない。同国は、人口の1割以上が移民で占められている。

 極右政党のルペン氏は、その問題にフォーカスして、「EUからの離脱」「難民・移民の阻止」をスローガンに掲げた。一時はルペン氏の支持率が上昇していたが、先に述べた理由から、最終的には「EUからは離脱しない。難民・移民も阻止しない」という良識的な主張を掲げたマクロン氏が勝利した。

 現大統領であるオランド氏の社会党候補は敗北したが、オランド氏はマクロン氏の当選を祝福した。このことが意味するのは、「フランスはこれまでと変わらない」という事実だ。

 もう1人、マクロン氏の勝利を祝福した人物がいる。ドイツのメルケル首相だ。同国では、秋に総選挙を控えている。メルケル氏は移民の受け入れに寛容だから、国外政治では信用が厚いが、国内では批判が強まっている。

 メルケル氏は、仏大統領選挙の結果に注目していたはずだ。このままマクロン氏勝利の流れが続けば、ドイツの総選挙でメルケル氏が勝利する可能性は高いと思う。

難民・移民問題の根源は米国

 では、肝心の難民・移民問題はどうするのか。マクロン氏はどう考えているのか。これから改めて大問題になるだろう。

 難民・移民の問題の根源は、イスラム諸国の混乱にある。この原因は、米国が作ったようなものだ。

 2003年3月。米国はサダム・フセイン大統領(当時)の独裁下にあったイラクへ侵攻した。このイラク戦争さえ起こさなければ、イスラム諸国が混乱することはなかったはずだ。テロ組織「IS(イスラム国)」も生まれなかった可能性がある。

 当時、米国は次のようなシナリオを描いていた。フセインという独裁者がイラク国民を抑圧し、言論の自由を奪い、苦しめている。だから、フセイン政権を倒せば、国民が安心して新しい政治をつくり、日本のような民主的な国が生まれるだろうと。

 しかし、ここに大きな誤算があった。実際にフセインを倒したら、イラクは大混乱に陥り、その最中にISも生まれてしまった。

 2010年から12年にかけて起こった「アラブの春」も象徴的である。チュニジア、リビア、エジプトで民衆による大規模なデモが起こり、30年続いた独裁政権が崩壊した。当時、穏健な政権ができたことで「アラブの春」と呼ばれ、欧米では「新しい時代の到来」と歓迎された。

 ところがその後、チュニジアを除く他のイスラム諸国ではデモクラシーは根付かず、あっという間に軍事政権に戻ったり、イスラムの武力勢力が支配する状態に陥ったりしてしまったのだった。

 つまり、米国の計画は大失敗に終わったわけだ。その後は、米国も欧州も、どうすればいいのか分からなくなったのだと思う。

実は米ロは対立していない

 シリアも複雑な構図になっている。米国が反アサド勢力の自由シリア軍を支援し、ロシアはアサド政権を支援している。間接的ではあるが、米国とロシアが対立しているわけだ。さらには、その中でISがシリアやイラクで勢力を伸ばしてきた。

 混乱した中東をどう治めればいいのか。まずはシリア問題を解決しなければならない。おそらく、反アサド勢力に統治能力はないだろう。それは米国も分かっていると僕は思う。

 では、米ロの対立をどうすればいいのか。4月にアサド政権がシリアで化学兵器の使用したことに対し、トランプ氏が「憎むべき行為だ」としてシリアを攻撃した。ロシアはこれに「侵略攻撃だ」と強く非難し、米ロの対立はますます激しくなったと見られている。

 しかし、僕はそうは思わない。4月11日、ティラーソン米国務長官がロシアを訪れ、プーチン大統領と長時間にわたって会談した。この長時間の会談が意味するのは、基本的に米ロのコミュニケーションはスムーズだということだ。

 最終的には、米ロが組んで、「アサド政権は支持するが、勝手なことはさせない」という方向性で一致するのではないだろうか。

 結局、イスラム諸国が安定しない限り、難民問題は解決しない。おそらくは、フランスも米ロに同調するだろう。今後、改めて注目されるシリア問題や難民・移民問題に、マクロン氏はどう立ち向かうのか。僕はこの点に注目している。