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「金妻」住宅地の落日、高齢化でスラム化懸念も

東京五輪の終幕が「空き家ビッグバン」の号砲に

 国土交通省は3月、今年1月1日時点の公示地価を発表した。発表によると、わずかではあるが住宅地の地価が9年ぶりに上昇、地方都市でも、札幌市や仙台市、広島市、福岡市が地価上昇を示した。アベノミクスや日銀のマイナス金利政策がようやく効果を発揮したようにも見えるが、一方で日本の人口はすでに減少に転じ、空き家率も大幅に上がっていたはず。はたして我が国の住宅を取り巻く実情はどうなっているのか?
 不動産コンサルティングのオラガ総研、牧野知弘社長に話を聞いた。

“ファンドバブル崩壊”の時の動きに類似

国土交通省が先日発表した2017年1月1日時点の公示地価で、「全国の住宅地」が9年ぶりに上昇に転じました。上昇率はごくわずかでしたが、資産デフレからの脱却の良い兆候と見てよいでしょうか。

牧野:それは短絡的だと思います。不動産の価格の変動について考えるには、その要因が投資を目的とするマネーによるものであるのか、実際に住んで利用する実需に基づくものであるのか──両方の側面を考える必要があります。実需についてはもちろん、人口の減少を背景に確実に減っていきます。

 不動産が証券化されるようになって以降、投資マネーの対象としてマンションなどの不動産がクローズアップされるようになりました。不動産業界に流れ込むマネーはその時々の投資環境によって常に変動するものです。最近の住宅地の地価の上昇は“(不動産)ファンドバブル崩壊”と言われた2007年ごろの動きに類似していると思います。投資マネーの動き次第で、目先の地価の上下動はありますが、大きな流れとしては人口の減少とともに実需が減少し、とりわけ中古住宅の価格は低下傾向です。

中古住宅の“駅バス物件”はもはや売れない

「日本の人口は2053年に1億人割れ、50年後 8808万人になる」という、ショッキングな発表(厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所による)が先日ありました。人口減少が続く以上、住宅の実需は減るし価格の低下は続くと。

牧野:移民を受け入れて日本の人口が増えるといったことがない限りは、住宅の価格低下傾向は止まらないでしょう。今のところ首都圏の人口は都心回帰の傾向もあって増えていますが、名古屋圏は横ばい、大阪圏では減少傾向です。また首都圏でも千葉や埼玉などですら人口はいよいよ減少に向かいそうな兆しがあります(※編集部注 例えば2015年の国勢調査に基づく千葉県の人口は622万人で、前回調査から0.1%増と過去最低の伸び率)。

 このため、首都圏であっても郊外の駅からバスに乗って通勤・通学するような新興住宅地の中古住宅の価格の低下が激しいのです。いわゆる“駅バス物件”はまったく売れません。子供が独立したから、郊外のニュータウンの一戸建てを売却してマンションに買い替えようという団塊の世代の人たちは少なくないですが、売れないという悲鳴ばかりが聞こえてきます。横浜市や千葉市、千葉県船橋市などの都心への通勤圏でかつて4000万~5000万円ほどで購入した一戸建てやマンションも、数百万~1000万円程度でしか売れないケースが増えました。

共稼ぎ夫婦が郊外から都心の職場へ通うのは無理

子供たちは実家から出て、都心に住んでいるから郊外の一戸建ては老親の手に余る。だから買い替えたいけれども、いざ売ろうとするともはやなかなか売れない、ということですか?

牧野:その通りです。日本の経済成長を支えてきた団塊世代のお父さん・お母さんは、子供たちが戻ってきたときのために、これまで子供部屋を残してきたのですが、すでに都心で生活をしている団塊ジュニアの子供たちはなかなか実家には帰ってこられないのが現実です。団塊ジュニアたちは多くが共稼ぎですから、郊外の住宅に住んで、子供の保育園の送り迎えをしながら都心の会社に通うなどといった生活はできません。

ライフスタイルの変化、都心人口の増加

団塊の世代、郊外の住宅というと、私のような世代(50代)の人間は1983年放送のTBS系統テレビドラマ「金曜日の妻たちへ(金妻)」を思い出します。団塊ジュニア世代のお父さん、お母さんとは、おそらく、あのドラマの主人公たちの世代ですよね。日本がバブル経済へと向かう中で、郊外のニュータウンで華麗な生活を送るライフスタイルは、社会現象にもなったものです…。

牧野:私は東京都中央区の育ちですが、子供の頃、周りに住んでいた友達がどんどん郊外へと引っ越して、いなくなっていきました。あの時代は、都心から郊外の一戸建てへという流れがあって、それこそ「金妻」の舞台のようなニュータウンへ移っていったわけですね。それが今はまったく逆で、東京でも千代田区、港区、中央区といった都心三区の人口が増えています。

 近年の都心回帰を象徴的に表している例の一つとして、私が育った東京都中央区の人口の推移があげられます。中央区の人口は、1990年代半ばには7万人を切るところまで落ち込んでいましたが、その後、30歳代から40歳代を中心とする転入者が増加し、今では15万人以上へと急増しています。非常にきれいなV字グラフです。生産年齢人口(15歳から64歳までの「働き手」と呼ばれる人たちの人口)の比率も日本トップクラスへ。日本で有数の若い街となっています。

瀟洒な郊外の家は今や築35年の「古びた家」に

言い換えれば、逆に郊外のニュータウンは、お年寄りの街になっているということですね。

牧野:70歳くらいになる団塊世代が多い街ということになりますね。団塊の世代の多くはニュータウンに一戸建ての自分の城を持つことに憧れ、1980年代くらいにこぞって家を買いました。とりわけ地方で育った人たちには、自分の家を持つということが一人前になるための通過儀礼だったのです。そのために、35年間ものローンを組んだ人も多かった。「金妻」もまさにその夢の城での夢物語だったのですが、住宅ローンの返済が終わってしまえば、瀟洒な住宅も今や、築35年の「古びた家」だったり「さえないマンション」だったりでしかないのです。

「金妻」ニュータウンの家も“一代限り”

金妻の主人公が購入したテラスハウスは人気になり、当時、ロケ地には多くの人が見学に訪れるほどだったそうですが、今頃は単なる「古びた家」になっているのであれば、さびしい限りですね。

牧野:“一代限りの家”ではなく、子供や孫がその家を継いでくれるのであれば、35年ローンを組み、一生を懸けてその家を手に入れた甲斐もありますが、先ほど申し上げたように、共稼ぎの子供たちは郊外の家に住める状況にはないケースが多いのです。

 団塊の世代の人達は、今も大変お元気な人たちが多いです。でも、やはり加齢による老化は避けられないでしょう。団塊世代は、東京オリンピックの年(2020年)には71歳から73歳くらいとなり、男性だといわゆる「健康寿命」(健康上の問題で日常生活が制限されず生活できる期間、約71歳)を超え、2023年頃には「後期高齢者」(75歳以上)となります。高齢者施設に入居したり、やがて人生そのものから退場していったりして、彼らが買い求めてきた都市郊外の家から離れていきます。団塊の世代は全国に六百数十万人、首都圏にも二百数十万人いらっしゃいますから、言い換えれば空き家予備軍のストックが大量にあるわけです。いずれそれらの多くは賃貸に出されるか、売却されることになるでしょう。

 日本国内の空き家は2013年時点で820万戸を超え、2018年ごろには1000万戸を超えると言われています。さらに2020年の東京五輪の終幕が、空き家の爆発的増加の“号砲”になると言えるでしょう。

不動産を消費財と見る、団塊ジュニア

「金妻」の主人公たちも、結果として一代限りの家を持つためにあまりにも多くの労力とお金をつぎ込んでしまったことを、悔いているかもしれませんね。「金妻」放映から約35年が経ち、人々の価値観やライフスタイルはすっかり変わってしまった。

牧野:そういうことです。ターニングポイントは、1996年ごろだっただろうと推察しています。その頃、専業主婦家庭の数を共稼ぎ家庭の数が上回りました。先ほども言いましたが、共働き家庭では、子供を保育所に預けて、郊外から東京都心などへ長時間通勤するのは至難のわざですからね。結局、都心に住むことになるわけです。

 しかし、そうした今の若い人の意識は、彼らの父母のような昭和の人間の意識とはまったく違います。親の世代のように一生をかけて35年ローンを組み、人生を豊かにするためのお金のほとんどを住宅に費やすことのバカバカしさに、とうの昔に気づいています。便利な生活ができれば賃貸で構わないという人が多い。もしも会社をリストラされて収入が減ったら安い借家に移ればいいし、家族構成が変化すれば別の借家を探して住めばいい。若い人の感覚では、住宅も家電や自動車のような耐久消費財と同じような存在なのです。

 私の身近にいる若い人や若いお客さんには、あえてローンを組むのであれば、倉庫みたいな建物を買って改装しシェアハウスとして運用するとか、二階建の戸建て物件の一階を賃貸に回すとか、ビルを買って民泊事業参入も視野に入れるとか、とても現実的で柔軟な発想を持っている人が多いです。同じ借金するのでも返済原資を自分の給料以外に確保している。投資に対するリターンを考えて、自分の家も選ぶ。とても面白い時代になったと思います。

2033年には日本全体の30%が空き家に、スラム化懸念も

「金妻」の舞台となったような、みんなの憧れたニュータウンの今後がどうしても気になってしまうのですが。

牧野:子供たちの声は消え、老人たちしか見当たらなくなっていきますね。間違いなく高齢化が進行していく。そして、空き家の数は右肩上がりに増えていきます。住宅地としての機能を事実上終了せざるを得ない街も出現するかもしれません。だから…もし「投資」という意味も含めて家を買いたいという読者の方は、あと5年くらい待った方がいいと思いますよ。団塊世代の方々が後期高齢者になる頃には、不動産の価格はさらに安くなっていきますから…。

牧野:もちろん、空き家が増えるのは郊外のニュータウンだけではありません。今はまだ郊外からの流入により東京の人口は増えています(※編集部注 4月14日に総務省が発表した2016年10月時点の人口推計によると、東京都の人口は前年比0.8%増、1362万人)が、東京の住民の高齢化はこれからが本番。都心や大都市の分譲マンションでも多くが主を失ったり、介護施設などに入所したりして、賃貸に出されるようになります。一方で、おかしなことですが、人口が減っていくというのに相続税対策などもあって賃貸向けの集合住宅の大量供給は今も続いています。

 野村総合研究所は2033年には日本全体の30%が空き家になると試算しています。数にして約2170万戸です。まさに日本全体が「空き家列島」になるわけです。そして、空き家率が30%を超えてしまうと犯罪が増え、地域が荒廃していき、「スラム化」が一気に進むと言われています。

マンション立て直しは「絵に描いた餅」

日本とは思えないような物騒な話ですね…。

牧野:とりわけマンションでは、住民の高齢化が進むと、住民たちの多くは住居の改善に大金を費やす意欲はなくなります。人生の残り時間が多くは残っていないからです。高齢化の延長線上で空き家が増えていくと、管理費や修繕積立金の滞納も増えます。

 管理費や修繕費の滞納が、外国人オーナーによるものである場合、海外までその人を追いかけてお金を回収するなどということはできません。物件を差し押さえて売却するなどといったことを一生懸命やる管理組合もありません。もはや区分所有者の5分の4以上の決議でマンションを建て直すなどということは「絵に描いた餅」。そうなると、そこから逃げ出そうとする人はさらに増えていく。資産であった不動産が、一転して負債になってしまうのです。

資産であった不動産が、一転して負債になる瞬間とは

「負債」というのは言い過ぎでは?

牧野:いいえ。価格が一定以上下がってしまい、売ることもできず、貸すこともできず、かといって誰も使わないということになれば「負債」といっても過言ではありません。現時点でも、リゾートマンションでは一戸30万円などといった物件があるのをご存知かと思います。購入すれば管理費や固定資産税、維持費などが発生します。だから買い手がつかない。

 将来、都心や大都市圏の高級マンションもスラム化してしまえば、同様の状況になるでしょう。外国のスラムのように、たとえ窓ガラスが割れていても、誰もそれが異常なことだと思わなくなってしまう。いったんスラム化してしまうと、賃貸先の見つからないオーナーが「誰でもいい」から貸すといったケースも増えるでしょう。

 反社会的勢力の人達が入ってきて事務所を開いたり、犯罪の温床になることもあるかもしれません。場合によっては、そうした人たちが意図的に騒いで、残っている人の追い出しを企てるなどといったことも。そうなると、負のスパイラルです。悲しい現実は、対岸の火事ではなくすぐそこまで迫っています。

「借家で十分」と考える人にとって、家はよりどりみどりに

救いのない話ばかりですね…。

牧野:よい側面もあります。昭和の人間の多くが背負い込んだ、非人間的な「35年ローン」といった呪縛から、若い人たちが自由になるということです。高度成長期の頃のように不動産の価格が上がっていくことがもはや幻想となった以上、若い人たちの多くにとって、住宅の価値とは「利用価値」に過ぎないという認識になっていきます。そうなれば、昭和の人間たちが住宅に費やしていたお金を、別のポジティブなことに振り向けて使うことができるようになる。

 家を借りるにしても買うにしても、居住に必要なコストは下がっていくでしょう。そして、多くの人の心の中から「自分の家を買いたい」という欲求が減れば、住宅の価格はさらに急速に下がります。「家は借家で十分」と考える若い人たちにとって、家はよりどりみどりになります。ウィークデーは通勤に便利な都心の賃貸住宅に住み、週末はやはり賃貸の、広い庭のある郊外の一戸建てでゆっくり過ごす。そんなライフスタイルを選ぶ人たちも増えるのではと思います。