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経済統計の理想と現実(下)交易改善踏まえず、実態見えにくいGDP。

指南役 永浜利広さん(第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
所得から見た実質的な経済規模と隔たり
 経済の動向を把握するうえで重視されているのが国内総生産(GDP)です。GDPは期間内に国内で生み出された付加価値の合計で、「生産」「需要」「所得」という三つの側面のどこから見ても等しくなる「三面等価の原則」があります。しかし日本経済は特有の構造故に、GDPでは所得の実態を捉えにくいという課題があります。
 通常は実質GDPが変化すれば、実質所得も変化するはずです。しかし所得から見た実質的な現在の日本の経済規模は、実質GDPには反映されない交易条件(輸出品と輸入品の交換比率)の変化にも大きく左右されます。
 輸出価格が輸入価格を上回ると、その国の交易条件は有利になり所得(交易利得または損失)が増え、反対に不利になると所得は減ります。2014年10~12月期以降は原油など資源価格が暴落し、日本の交易条件は大きく改善しました。これがGDPに交易利得(損失)を加えた、国内の実質的な所得を示す指標「実質国内総所得(GDI)」を押し上げています。つまり実質的な日本の経済規模 を見るには、交易条件の変化を加えたGDIで見るべきであり、GDPだけを見ていると足元の回復を過小評価しかねません。
 交易条件を含む経済指標として、GDIの他に国民総所得(GNI)があります。2つの指標の大きな違いは、GDIは国内に落ちる所得を表し、GNIは国民を対象としている点です。
 またGDIが、経常収支を構成する項目のうち貿易収支とサービス収支のみが計上されているのに対し、GNIは海外への投資で得た配当などである第1次所得収支も含みます。つまりGDIは国内の所得規模を測る指標である一方で、第1次所得が加わるGNIは国民全体の所得状況を見る指標となります。
 第1次所得収支は、「投資収益」と「雇用者報酬」に分けられ、現在は収支の99%以上を投資収益が占めています。これは海外の金融資産から生じる利子や配当の受け取りや海外への支払いも含み、企業の海外展開を反映した投資収支の黒字が増大したためです。
 近年、第1次所得収支の拡大を受けてGDIとGNIの乖離(かいり)が目立っており、GNIがGDIに対して超過傾向にあります。日本人の海外での経済活動が活発化し、日本よりも海外 の経済成長率が高いこともあって、日本が対外資産から得られる収入の方が、海外が対日投資から得る額よりも多いためです。
 少子高齢化が急速に進み、国内需要の減少が不可避な情勢では、国内の経済活動だけでは実質GDIの増加は困難とされています。それならばと企業が更に海外市場へ活路を見いだし、海外への投資で得た利益を日本国内に還流させるというグローバルな視点から、GNIを増やし、国民の所得を増やすべきだという発想が生まれるでしょう。しかし、第1次所得収支は海外で所得が生じた時点で計上されてしまい、海外で得た所得を日本国内に還流させなくても含まれてしまいます。従って、純粋な日本国内の所得の増加を知るには、GNIよりもGDIで見る方が正確です。
より景気実感に近いGDI成長率の採用が有効
 実質GDIを増やすには、第1に国内生産を増やすことに加えて、交易損失を減らすという視点が重要となります。国内生産を増やすためには、国内所得を生み出す源泉となる国内企業の雇用機会を増やす必要があります。そのためには、産業の六重苦(異常な円高、高すぎる法人税率、経済連携協定対応の遅れ、厳しい労働・環境規制 、高いエネルギーコスト)を緩和することが不可欠でしょう。
 異常な円高はすでに是正されていますが、近隣諸国並みの20%台半ばへの法人税率の引き下げは道半ば、経済連携協定は環太平洋経済連携協定(TPP)が基本合意に至ったばかり、労働規制は正社員の解雇ルールの明確化が先送りされています。今後は、税制改正やTPPにとどまらない経済連携協定の推進による立地競争力の強化がカギとなるでしょう。また、これまでエネルギーコストは原油価格の下落により下がってきましたが、更に交易損失を減らす取り組みも重要です。
 第2に、新分野での雇用創出も重要です。そのために、人口が減少する中でも市場の拡大が期待される医療・介護や教育・保育、農林水産業などの分野での規制改革が必要でしょう。社会保障の効率化とともに待機児童や介護離職の解消、農地の集約と株式会社の農地取得自由化などの改革が進み、結果としてこれらの分野で需要喚起が実現すれば、輸出増加や女性の更なる労働参加も促されるでしょう。
 結局、わが国の経済成長の問題点は、GDPやGNIが成長しても、そのまま国内の総所得であるGDIの成長に結びつくとは限らな いことにあります。欧米の統計でも交易損失や第1次所得収支は存在しますが、日本のように貿易や投資の構造に偏りがないため、GDPやGNIおよびGDIの成長率が日本ほど大きく乖離しません。これらの指標が同時に公表されること、GDPやGNIよりもGDIの方が景気実感に近いこと等を勘案すれば、GDPと同じように経済成長率にGDI成長率を併用することも検討されてしかるべきでしょう。
 なお経済統計の改善を図る上では、個別の問題への対応だけでなく、統計作成にあたる組織や予算を含めた統計行政の抜本的見直しが必要となるでしょう。主要な経済統計については、企画・立案面でも可能な限り集中化することが合理的です。企画・立案が集中化されれば、多くの省庁にまたがる所轄業種の垣根にとらわれない横断的・整合的な統計整備が可能となり、統計調査の重複排除にもつながります。
 更に、経済社会のグローバル化・IT化や、企業組織形態の多様化などが進むに伴って、経済実態を把握する上での経済統計の役割はますます重要となっています。経済運営に当たっても、信頼できる経済統計による現状把握が不可欠です。現在の厳しい財政事情の下 においても、統計予算全体の拡充も検討されるべきでしょう。
ながはま・としひろ 1995年(平7年)早大理工卒、第一生命保険入社。98年、日本経済研究センター出向。2000年から第一生命経済研究所経済調査部。05年に東大院経済研究科修了し16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員。著書に「経済指標はこう読む」(平凡社)、「狼と香辛料で面白いほどわかるお金のしくみ」(KADOKAWA中経出版)など。