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経済統計の理想と現実(中)GDP2度の速報、大きすぎるブレ。

指南役 永浜利広さん(第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
平均0.8ポイントずれ、主因は不安定な法人企業統計データ
 多くの民間エコノミストは、国内総生産(GDP)速報の問題点として1次速報から2次速報への改定幅の大きさを挙げています。実際、1次速報から2次速報への改定幅の大きさを確認すると、実質GDP成長率のかい離幅は平均0.8ポイントとなります。特に2014年7~9月期は1次速報と2次速報で成長率の符号が逆転しました。
 この時は14年4~6月期がマイナス成長であったため、2期連続マイナス成長を景気後退の定義とするテクニカルリセッションとなるか否かのタイミングでした。その時点で成長率の符号が逆転したことが、市場関係者の不満をより高めています。現行の推計方法に基づくGDP速報は、景気判断を行う指標として重大な欠陥を抱えているといわざるを得ません。
 こうしたかい離の主因は、2次速報で法人企業統計季報の情報が加わることで、設備投資と民間在庫の推計値が大幅に修正されることにあります。そもそも法人企業統計は、資本金1億円未満の抽出率が低いことなどから、中堅・中小 企業に関するデータが不安定です。サンプル替えの際に調査結果に連続性が損なわれることや、公表時期が遅いという問題があります。
 この背景には、資本金1000万円以上の営利法人の財務諸表を広範に調査していることがあるでしょう。雇用者や人件費の動きも、他の労働関連統計と連動しないことが指摘されています。
 法人企業統計の改善の方向性としては、現時点では売上高、経常利益、設備投資のみである季節調整系列の拡張や、サンプル替えの影響を調整した数値の公表、資本金1億円未満の企業の抽出率を引き上げることが考えられるでしょう。また、法人企業統計季報はGDP2次速報の民間企業設備等の推計に用いられますが、公表は当該四半期の2カ月以上後と遅いことも問題点としてよく指摘されます。
 これを改善するために例えば、売上高や経常利益、設備投資、在庫等の重要項目については早期に別途集計して速報を発表することも可能ではないでしょうか。また、集計方法次第では地域別のデータや、連結ベースの集計、更には原材料費の内訳や売上高の輸出向け・国内向け等の集計が可能と考えられます。こうした方向性で、法人企業統計が更に改善 されることが望まれます。
抜本対策は供給側中心の推計への一本化
 ただエコノミストの多くが指摘するGDP1次速報から2次速報への改定幅の大きさに対して最もシンプルで根本的な対応は、振れの原因となっている法人企業統計季報を基礎統計として採用することを取りやめることでしょう。前回解説した家計調査や法人企業統計のような需要側統計の採用を取りやめ、生産関連など供給側統計を中心とした推計に切り替えることは、供給側統計を中心に推計される確報との整合性を高めることにもつながります。
 さらに、実質GDP成長率の四半期ごとの変動のブレを小さくすることにもつながることが期待されます。法人企業統計と並んで需要側統計の代表格である家計調査がブレの一因との意見が、民間エコノミストの中でも強くあります。供給側統計中心の推計に一本化することは、早急に求められます。さらに、需要側推計値と供給側推計値の早期公表も望まれます。
 GDPのほかにも日本の統計が直面する問題は多くあります。その1つが、海外関連の統計が圧倒的に不十分なことです。国際的な工程間分業であるオフショアリングや、サービス部門の国際的なア ウトソーシングの動向を把握するための情報は極めて乏しいのが現状です。特に企業が国際展開をしていく上で、海外での企業活動の状況を把握する統計が不足しています。グローバル化の進展に伴い、海外に進出した企業の活動、決済通貨の実態、M&A(合併・買収)の動きなどの把握が不可欠になっていますが、現状では十分な実態把握ができません。
 統計の対象とすべきユーザーは日本を超えて広がっておりますので、海外で活動している組織・人の実態を把握することのニーズは高まっています。また、生産工程が国境を越えてネットワーク化している中で、部品貿易やサービス貿易、企業内取引にかかるデータも不足しています。
 速報性の向上も日本の統計の課題です。他の先進国、特に米国等と比べて全般的に調査結果の公表が遅いとの批判が多くあります。こうしたことは、企業の経営判断や政府の迅速な経済情勢の把握を妨げ、適切な政策運営の障害となるでしょう。特に、景気関連統計には速報性が求められるものが多いことからすれば、集計の迅速化や作成方法の改善等によってできる限り公表を前倒しする必要があるでしょう。
 結局、経済社会の構造が急速に 変化する中、既存の統計手法が変化に適切に対応しきれず、経済実態とのズレが顕著となっていると言えます。こうした変化への対応の遅れは経済主体の意思決定の質を低下させる恐れがあります。従って、統計が経済社会の変化を的確に反映した情報を提供するよう不断の見直しが求められるでしょう。
 また日本の統計は、国際比較が難しいものが多いとされています。例えば資本ストックの概念が海外の基準と異なり、単純な比較が難しい状況です。また社会保障統計についても、医療費の概念が違うことから、医療費負担を諸外国と比較しようとしても困難です。統計の国際比較の改善が求められており、特に時系列での比較可能性を高める工夫が必要でしょう。
 同時に、各種統計が多数の省庁により実施されているため、統計の整合性や利便性の面で問題が生じるケースも多く、経済統計の一元化管理を進める必要があります。併せて、政府の有する統計情報の公開を一層推進し、透明性を高めていくことも重要でしょう。
ながはま・としひろ 1995年(平7年)早大理工卒、第一生命保険入社。98年、日本経済研究センター出向。2000年から第一生命経済研究所経済 調査部。05年に東大院経済研究科修了し16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員。著書に「経済指標はこう読む」(平凡社)、「狼と香辛料で面白いほどわかるお金のしくみ」(KADOKAWA中経出版)など。