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経済統計の理想と現実(上)消費実態把握へ、「家計」調査改善急務。

指南役 永浜利広さん第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
少ない調査世帯数、月次指標として限界
 2012年12月から始まったアベノミクスは、14年4月の消費増税をきっかけにピークアウトしたとの見方が昨年夏頃から急速に高まり、エコノミストの経済見通しも急激に下方修正されました。景気の先行きには一段と注目が集まっており、その判断材料となる経済指標の役割も重要性を増しています。
 特に家計調査や毎月勤労統計調査、法人企業統計季報は実態を捉えているのか、国内総生産GDP)の速報値はなぜここまでぶれるのか等は、政策判断への影響も大きい問題です。信頼性について関心が高まっており、内閣府の統計委員会でも改善に向けて検討しています。そこで本稿では、3回に分けて経済統計の問題点を踏まえて、日本の経済統計はどうあるべきなのかについて考察します。
 今回はまず、GDP速報の基礎データとなる一次統計を見てみましょう。最も問題が多いのが、総務省「家計調査」です。家計調査は家計が購入した財・サービスに対する全ての支出を網羅しているだ けでなく、調査世帯の収入や品目別の消費支出など詳細なデータを提供しています。利用価値が高く、消費動向を見る上でも重要な判断材料とされてきました。このためGDP速報の民間最終消費支出の推計にも用いられていますが、以前から「消費の実態を反映していない」等の批判があります。
 この主たる原因は調査世帯数が少ないことで、個人消費の実態を必ずしも正確に反映しない可能性があります。特に、自動車など購入頻度の少ない高額消費が調査世帯に集中した場合、全体の消費がかく乱される傾向があります。実際、定義の近い家計調査の実収入が毎月勤労統計の現金給与総額と大きく乖離かいり)しているほか、複数の調査をもとにした消費総合指数と比べ弱い動きになっています。
 具体的には、全国には3500万に達する「2人以上の世帯」がありますが、家計調査が調査しているのは約8000世帯で、全世帯数の約0.02%にとどまっています。このため、家計調査の精度は低いと指摘されています。また、日々の詳細な支出内容にわたる調査であるため、報告者側の負担も大きく、調査に応じる世帯の偏りがあるとの指摘もあり ます。家計調査は単身世帯も調査対象としていますが、単身世帯数が全国で約1300万世帯に達しているのに対して、家計調査における調査世帯数は約750世帯と全世帯数の約0.006%にすぎず、精度面では2人以上世帯よりも大きな問題があります。
 また近年では、統計調査環境の悪化も指摘されています。女性の社会進出が進む中で、家計調査のように報告者負担が大きい調査に応じられるケースは大幅に減少していると考えられます。こうした傾向が進めば、統計の精度が更に低下する恐れもあります。このような調査環境を考えると、もはや家計調査は月次の景気指標としては限界があると言わざるを得ません。
 一方、厚生労働省「毎月勤労統計」の問題点は、何と言っても調査対象企業を変更して過去のデータと段差が生じた場合に、過去に遡ってデータを改定する幅が大きいことがあります。15年に調査対象企業の変更を行った際には、現金給与総額の過去の変化率が最大で0.7ポイントも下方修正されたことが大きな問題点として指摘されています。
大きくぶれる賃金データ、毎月勤労調査も問題
 家計調査の改善策としては、今後はよりマクロの消費動 向をとらえやすくすることが求められます。例えば調査項目を限定して調査世帯数を拡大した「家計消費状況調査」をメイン指標とし、家計調査をサブ指標として取り扱うことが考えられるでしょう。総務省は01年10月より調査品目を絞って約3万世帯を調査対象とした「家計消費状況調査」を開始し、02年から公表しています。
 調査項目を高額商品・サービスへの支出やネット消費支出に限定する代わりに調査世帯を拡充して、消費動向を安定的にとらえることを目的としています。市場での認知度は低いですが、日本銀行等では個人消費の需要側の統計として家計調査よりも消費の実態を表していると見ており、この調査を重視しています。しかし、家計消費状況調査がGDPの個人消費の推計に反映されるのは限定的であり、かなりの部分は家計調査が使われることからすれば、GDPも実態から乖離している可能性があるといえます。
 従ってGDP速報の推計についても、もし需要側からの推計を継続するのであれば、統計精度の維持・向上を図るために可能な限り家計消費状況調査の結果を活用するといった改善策を検討すべきでしょう。家計消費状況調査は調査世帯数も多 く、家計調査よりも安定的な動きをすることも利点の1つです。
 ただ問題は、調査対象世帯が多くデータ収集にも時間を要することなどから、速報の公表時期が当該月の翌々月上旬と遅いことがあります。このため、現在の当該月の翌月下旬に公表している家計調査の集計を遅らせるなどして、家計消費状況調査の公表を現在の家計調査並みに早めるべきでしょう。更に、家計消費状況調査については、実質値や季節調整値が無い等、データが充実しておらず、消費のメイン指標としては物足りません。従って、メイン指標とするにはデータを拡充することも求められるでしょう。
 一方、毎月勤労統計の改善策としては、筆者も委員を務めた毎月勤労統計改善検討会でも指摘していますが、調査対象企業を入れ替える時の断層の調整を過去に遡って変化率が変わらないように、過去の指数の水準を平行的に上下させる平行移動方式を適用することが考えられます。特に所定内給与については、調査対象企業数が少ない一方で月次データである毎月勤労統計と、調査対象企業数が多く年次データである賃金構造基本調査との整合性がとりやすくなります。このため調査対象企業数の拡充も含めて 、毎月勤労統計改善の方向性として指摘しておきたいと思います。
ながはま・としひろ 1995年平7年)早大理工卒、第一生命保険入社。98年、日本経済研究センター出向。2000年から第一生命経済研究所経済調査部。05年に東大院経済研究科修了し16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員。著書に「経済指標はこう読む」平凡社)、「狼と香辛料で面白いほどわかるお金のしくみ」KADOKAWA中経出版)など。